174話 剥されてたまるものですか
雪の苦悶の表情を見ながら千秋は手首を剣に変
えると思い切り液状メイサに刺した。
一度目は難なく跳ね返された。
二度三度と試すが、液状なのにまるで硬い甲羅
に包まれたようにびくともしない。
このままでは・・・
千秋は焦った。
チラ見する雪の苦悶はますますひどくなっている。
このままでは、メイサはおろか雪まで危ない。
どうすればいい。どうすればいいのだ。
千秋は少し引き全体を見た。
液状メイサはその大きさを増していた。
ヌメヌメとうごめき、雪を締めあげている。
その時だった。
雪の目が開いた。
苦悶に満ちた表情から一変、大きく目を見開くと
全身から紫の炎を発光した。
あれは、力也が怒った時の陽炎だ。
ひょっとしたら・・・
千秋は全身の力を剣に込めると液状メイサを睨んだ。
紫に煽られた全身は紫に変色している。
その中で一点、わずかだが、赤黒いひび割れが見えた。
無意識にそこが弱点だと感じた千秋はそこに向け
剣を思い切り突き刺した。
瞬間、液状メイサの動きが止まった。
その隙を見て雪が液状メイサから抜け出した。
千秋の剣は液状メイサの身体に見事に突き刺さっ
ている。
「千秋ちゃん、そいつ暴れるけど決してその剣を
抜かせちゃだめよ。いつまでも、いつまでも
とにかく突き刺しているのよ」
雪の言葉はたどたどしい。
おそらく相当のダメージなのだろう。
千秋に液状メイサの弱点を探させるため、敢えて
囮になってくれたのだ。
離すもんか、死んでも離すもんか。
千秋がそう決意した途端、液状メイサが暴れ始めた。
それはまるで暴れ馬のように、千秋の剣を剥す為
滅茶苦茶な暴れ方だ。
千秋の身体を壁にぶつけ、窓にぶつけ、床に叩き
つけ、とにかく千秋を剥そうとする。
「負けるもんですか、あんたなんかに、負けてた
まるもんですか」
千秋は突き刺した剣に意識を集中し、剥されまいと
懸命に耐えた。
身体中に激痛は走るが、それが妙に心地よい。
痛さがどこかに吸い込まれていくようだ。
まるで、千秋が受ける激痛を、メイサが共有して
くれているかのように・・・。




