173話 そんなのんきな事いってていいの
部屋の壁に思い切り吹き飛ばされた千秋は腰を
さすりながら起き上がった。
部屋の外では力也と藤木が心配そうに部屋の
中を見守っている。
力也などは今にも部屋に入ろうとしている。
それを藤木が必死に止めている。
今力也が入れば力也の自立ミトコンドリアまで
目覚めてしまう。
雪はゆっくり千秋に近づくと
「凄い力ね、やはり、異種ミトコンドリアが心
の核から一時的にせよ完全に離れると凄いエ
ネルギーを大気から得るみたいね」
「そんなのんきな事言っていいの。メイサやばい
んじゃないの?」
腰をさすりながら、それでも小さく息を吐くと
千秋は液状メイサを見た。
相変わらず同じ場所にとどまったままだ。
「確かにやばいわね。想像以上の変化だわ。あ
れじゃあ今のメイサさんの力じゃ取り込むど
ころか反対に食い殺されかねないわね」
「そんな冗談言ってる暇ないでしょ。メイサは
あの中でズタズタに殺られているかもしれな
いのよ」
千秋は段々腹が立ってきた。
雪に真剣度がまったく感じられないのだ。
まるで最初からメイサが異種ミトコンドリアに
取り込まれるのを期待していたかのように。
・・・まさか?
「ちょっと雪さん!」
一歩雪に踏み出した、その時だった。
液状メイサが鎌首を持ち上げ自身を水飴の様に
ねじり始めたのだ。
目は無いが、真っ直ぐ千秋を睨んでいる。
そのまま千秋に飛びかかってくるかのように睨ん
でいる。
「メイサさんまだ大丈夫みたいね」
いきなり雪がうなずいた。
何故大丈夫なのかわからないが、雪は微笑むと
ゆっくり千秋に近づいた。
「私が異種ミトコンドリアの気を反らすから、
千秋ちゃんあなたはもう一度あいつの中に入
って」
「中に入るって、どうすればいいの」
「刺せばいいのよ、メイサの液状のどこでもい
いからあなたの剣を突き刺せばいいの」
「でも、さっき跳ね飛ばされたわよ」
「異種ミトコンドリアのせい。だから私が気を引
くから、剣で思い切りその液状メイサを刺して」
「メイサは大丈夫なの、刺したりして」
「その前にあなたが刺せるかどうかよ、いい、と
にかく手加減せず思い切り刺しなさい、刺した
ら決して抜かれたらだめよ、刺したままずっと
いるの、そうしないと、メイサはあなたの力を
使えないから」
言うと同時に雪はそのまま液状メイサに飛びかかっ
た。
液状メイサは器用に自分の身体を二つに割るとその
まま雪をグルグル巻きにした。
「雪さん」
雪の身体を液状メイサが思い切り締め上げたのだろう
雪が呻き声を上げながら千秋に言った。
「今よ!」
雪の身体からは骨の折れるような不気味な音が鳴っ
ている。




