172話 強くなった異種ミトコンドリア
雪の説明はこうだ。
分離したメイサの肉片を千秋は一つにした。
これで異種ミトコンドリアとメイサの心の核は
再び合体した。
元々異種ミトコンドリアはメイサに取り込ま
れるのを嫌がりわざと分裂したのだが、合体し
てしまったら、メイサの心の核に取り込まれな
いよう必死にメイサに抵抗する。
分裂する前なら、メイサの心の核はおそらく
簡単に異種ミトコンドリアを取り込むことが出
来たのだが、分裂した異種ミトコンドリアはメ
イサ以外の世界を知ってしまった。これは言い
方を変えると強くなったと言い換えることがで
きる。
どれぐらい強くなったかは想像できないが、
分裂する前より数段。だから異種ミトコンドリ
アをメイサの心の核が取り込むことは難しくな
っているはず。
前例が無いのではっきりは言えないが、少な
くとも数倍、ひょっとしたら数十倍強くなって
いる可能性がある。
「つまりメイサが異種ミトコンドリアに取り込ま
れる可能性の方がたかくなったって事?」
「分裂する前よりは格段とその危険性が増したと
だけはいえるわね」
雪は現状を正直に説明した。
隠していても、メイサが異種ミトコンドリアに
取り込まれ怪物グールになれば、全員でメイサを
殺すしかないのだから。
「そんなぁ」
千秋は不気味にうごめく赤い液体になったメイサ
を見た。
今メイサはあの中で異種ミトコンドリアと戦って
いるのだ。
「で、私にできることって?」
「その液体に指を差しこめられれば、千秋の力の
一部がメイサが使えるかもしれないの」
だから雪は指を指し込めといったのか。
「もし弾かれたら」
「理論的には異種ミトコンドリアの力の方が強
いと考えられるから、メイサが勝つチャンス
はより少なくなるわね」
「わかった!」
千秋は恐る恐る液体になったメイサに指を触れ
てみた。
「きゃ!」
指どころか、体ごと千秋は吹き飛ばされ、壁にし
こたま体をぶつけた。
「嘘・・・」
雪の顔から血の気が引いた。




