171話 私にできることはないの?
異種ミトコンドリアは心の核が分裂した物、
本来は同じところにいなければならないもの、
だからもとに戻す必要がある、雪は手短に説
明した。
よくはわからないが、とにかく雪の指示通り
メイサの心が入った肉片を雪が捕獲している
異種ミトコンドリアが入った肉片に重ねた。
タイミングを見計らい雪がシールドを外すと
いきなり、メイサの心が入った肉片が拳大の
異種ミトコンドリアの肉片に侵入していった。
「ふう、これでいいわ、後はメイサが異種ミト
コンドリアとの対決に勝てばいいの」
雪はドカッと床に腰を下ろした。
少し顔色が悪い。
シールド制御は予想以上にエネルギーを使うの
だろう。
「大丈夫ですか雪さん」
「私は大丈夫、問題はメイサさんね。異種ミト
コンドリアが一度メイサさんの心から完全に
離脱してしまったから、メイサさんの心に取
り込むことが難しくなったはず、メイサさん
が耐えきれればいいのだけど」
気が付けば飛び散った肉片がいつの間にか集合
し一つの赤い塊になっていた。
固まりは、まるで蛇のようにぬめり、床をはい
ずり回っていたが、突然ピタリと止まった。
「さあ、始まったわよ、メイサさんの心の葛藤が」
「?」
「今メイサさんは自立ミトコンドリアを飼いなら
しているの、自分の手足として服従するように」
「もし失敗したらどうなるの」
雪はしばらく黙っていたが唇を引き締めると
「私達で安楽死させてあげるしかないわね」
「そんな・・・」
「言ったでしょ、これはそんな訓練なんだと」
「私にできることは無いの」
千秋の提案に
「無いわ、後はメイサさんの・・・」
と言ったところで雪は突然顔を輝かした。
「待って、千秋ちゃんなら、ひょっとして」
雪は動かなくなった赤い液状の塊と千秋を見比べ
「千秋ちゃんならメイサさんの心の核とコンタ
クトがとれるかも・・」
雪は千秋の手を掴むと赤い液状の固まりの根木
まで連れてくると自分の指を固まりに触れてみた。
「パシッ!」
鋭い光線と共に雪の指が弾き飛ばされた。
「雪さん!」
「私は大丈夫よ、やはり私は無理みたい、さ、
千秋ちゃん今度はあなたの番、あなたが触れて
みて」
さっきも同じことをして、なんなく指が中に入っ
た。今度だって行けるだろうと軽い気持ちで刺そ
うとすると
「千秋ちゃん、今度は多少の痺れがあるかもしれ
ないけど、それを我慢して、指を突き刺して欲
しいの」
「え、、ビリビリ来るの」
千秋は慌てて指をひっこめた。




