164話 私の中に住んでいる母
力也と千秋は慌てて実験室の扉に向かった。
力ずくで開けようとする力也に
「ダメ入っちゃダメ」
雪が駆け寄り二人を遮った。
「何言ってるのよ、メイサが、メイサが粉々な
のよ」
「いいから、あなた達は下がっていなさい」
雪は藤木にドアを開けるよう指示した。
「だめです。開けることはできません、入れ
ば雪さんが危ないです」
「いいから開けなさい」
「嫌です!」
「藤木君開けなさい!」
物凄い声だ。
こんな大声を出す雪は始めてみた。
「このままじゃ、メイサさんが死んでしまう
わよ」
「死んでしまうって、じゃあ、メイサはまだ死
んでないの」
千秋に生気が戻った。
「当たり前でしょ、あれは異種ミトコンドリア
のせいよ。メイサさんの異種ミトコンドリア、
もうとっくに目覚めていたのよ。わざと体を
粉々にして、千秋さんの心との対決を回避
したのよ」
「心との対決?」
「詳しいことは後で話すわ、とにかくここは私
に任せて、藤木君、早く扉を開けて」
渋々藤木が扉を開けると、雪は部屋の中に素早く
入った。
振り返ると、力也も千秋も入ってきている。
「ダメ、力也君、君はダメ、今ここで君の自立
ミトコンドリアまで覚醒したら、もう収拾が
つかなくなるから、力也君は早く出て」
力也を無理やり小部屋から追い出すと、扉を中
から閉めた。
「私は?」
「うん」
雪は部屋に飛び散ったメイサの肉片を見ながら
「この状況は私一人では無理みたい、千秋ちゃ
んにも手伝ってもらわないと」
「私は大丈夫なの、ここにいても」
「千秋ちゃんの異種ミトコンドリアたちは、千秋
ちゃんの中にいる、あなたのお母さんに睨まれ
ているから直ぐには動かないはず」
「知っていたんですか、私の中に母が住んでいる
事」
「お母さんが住んでいるだなんて、面白い表現ね」
笑いながらも雪は
「あなたはとにかく特殊なの、私達の理解を超え
た特殊なデーターがいっぱい出てきているの」
「じゃあ、私はこの中にいても大丈夫なんですね」
「少しの間ならば」
「じゃあ早く助けましょ、メイサを」
「ええ」
雪は部屋中にこびりついたメイサの肉片をぐるりと
見渡した。




