15話 グール同士の戦い
空には先ほどの銀グールがいつの間に連れ出
したのか赤ん坊を抱いた女性を包み込むよう
に浮かんでいる。
「何時の間に」
そう呟きながらも、やはり人が、いやグール
だが、元、人が空に浮かんでいる光景など始
めてみた。
驚きと言うより、感嘆と表現した方が適切な
のかもしれない。
下で相談し合っていたグルーの中から赤グー
ル飛び出すと輝く銀グールに地上から触手を
伸ばし攻撃を始めた。
やはり、女が奪われたことはまずいらしい。
女を包み込んでいる銀グールが少し高度を上
げると、もう一人のグルーがゆっくりと下降
し、赤グルーの触手に絡みこまれた。
それは赤グールがからめ取ったというより、
銀グールの方がわざと絡められたと表現した
方が適切かもしれない。
「飛んでるよ、あのグール」
千秋の言葉に幽厳も頷くしかなかった。
浮かんでいるだけでなく、銀グールは間違い
なく空中を自分の意志で飛んでいる。
赤グールの触手に絡めこまれた銀グールは
ゆっくり屋上に降り立つと、少し小首を動
かした。
すると銀グールを包んでいた赤グールの触
手が(ぶわん)と膨らみ、そのまま粉々に
砕け散った。
そこまでは予想していたのだろう。
赤グールは再生させた触手の先を剣に変え
ると、銀グールの胸元めがけその剣先を一
気に伸ばした。
剣は銀グールの胸を貫き貫通したその先で、
再度銀グールの身体を巻きつけた。
赤グールはそのまま銀グールを力也と同じ
ように持ち上げ壁に叩き付けようとしたが、
銀グールはびくとも動かない。
反対にその触手で自分の身体を持ち上げら
れると、空中で二三度回され、そのまま勢
いよくコンクリートの壁に叩き付けられた。
その衝撃で屋上の塔屋は粉々に砕け散った。
力也が叩きつけられた比ではない。
この衝撃の凄まじさは。
「これは面白いことになってきたぞ」
幽厳はそのまま屋上の安全地帯に避難した。
想像をはるかに超えるグール同士の戦いだ。
どんなとばっちりをくらうかわからない。
千秋はといえば、女を包んで浮かんでいる
もう一人の銀グールの下に移動していた。
無意識に足がここに来ていたのだ。
上空を意識しつつ、銀グールと赤グールの
戦いを見ていた。




