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155話 千秋の初恋

千明は銀ボタンのネックレスを握りしめ、目を

閉じた。

想いは条件反射のようにすぐ頭の中に広がった。


 小さなお下げ髪の女の子がいじめられている。

多数の男の子、女の子がお下げ髪の女の子を小

突きまわしているが、女の子はされるがままだ。


 そこに自転車に乗った王子様が現れる。

黒いスーツに赤いネクタイ。

王子さまは自転車から飛び降りると子供たちの

群れをかき分け、されるがままの、お下げ髪の

女の子を抱き上げた。


 周りを囲んだ子供たちが一斉に王子様に飛び

かかった。

王子さまは抱きしめたお下げ髪の女の子を安全

なところに置くと、飛びかかってくる子供たちを

容赦なく蹴散らした。

 容赦なくだ。


 容赦のない反撃に、子供たちは恐怖を覚えたの

だろう。一人が逃げ出すと、それにつられ皆が叫

び声をあげ逃げ去った。


 王子さまは振り返ると、優しい微笑みを湛え女

の子の肩に手をかけた。

王子様の口の端には血の筋が見える。

 子供といえ、大勢に殴られればやはり、怪我も

する。


お下げ髪の女の子は驚いて王子様に、持っていた

ハンカチを差し出した。

自分も痣だらけだというのに。


 王子さまは一瞬驚いたが、すぐまた笑顔に戻る

と、ハンカチを受け取り、泥だらけの少女の顔を

優しくふいた。


女の子の顔を拭きながら、王子さまは女の子に囁

いた。


「正義は待っていても来ないよ。自分で掴みとら

 ないと。今日は僕が君を助けたけど、明日は君

 が誰かを助ける番だ。助けるためには、まず、

 君が変わらなくちゃ。いい。わかった。人はね、

 いつでも変われるんだよ」


王子さまは少女の肩を軽く叩くと、泥だらけにな

ったハンカチを綺麗にたたむと、少女のポケット

に戻し


「今日から変わるんだよ、人はいつからでも変

 わることができるんだから」


ニコリ笑い、夕暮れの中に溶け込んで行った。


 それがお下げ髪、栗原千秋の初恋だった。


夕陽に溶け込んで行った王子様の正体はわからな

かった。ただ、チリジリに逃げる子供達が「あい

つはえのきだだ、えのきだの野郎だ」と叫んでい

たので、えのきだ何がしということはわかった。


 そして千秋は変わった。

その日を境に。


姉が習っている合気道を自分も習いたいと言いだ

すと両親は目を丸めて驚いたが、千秋が本気だと

知ると、喜んで賛成してくれた。


人は変わることができる。

いつでも変わることが。

正義は自分で掴まないと。

正義に力は必要だ。

力の無い正義は犬の遠吠えでしかない。


栗原千秋は変わるんだ・・・

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