153話 グール同士では子供が出来ないんだ
「ところで藤木君、君、千秋ちゃんとは知り
合いなの?」
「え、僕が千秋さんと?いいえこの間会った
のが初めてですが」
「そう、私はてっきり知り合いなのかと思って」
「どうしてですか?」
藤木が興味深そうに聞いてきた。
「千秋ちゃんの君を見る目がまるで・・・」
言いながら、雪はクスッと笑った。
「なんですか含み笑いなんかして、気持ち悪い
じゃありませんか」
「王子さまを見る目つきだったから」
「はい?」
目を丸めながら
「僕が王子様ですか」
「まあ、千秋ちゃんに限らず、君は女子にモテ
るからね」
雪は言いながら又、小さく笑った。
「雪さんからかわないでくださいよ」
何かを思い出したのか藤木は少し真顔になると
「ところで、交配の研究については目途がつい
たんですか」
「まだまだ、だって研究生体が北王路母娘だけな
んだから、研究もしにくいし」
「ですよね。あの母娘は特別ですから」
藤木は一人納得すると、また思いついたのか
「元木博士も同じ目的であの母娘をさらっていっ
たんでしょうかね」
雪は眉を寄せた。
あまり話題にしたくない話のようだ。
「ここだけの話、元木博士の方は何かもう掴
んでいると思うわ」
「元木博士は天才ですからね」
「伊集院博士だって天才よ」
「しかし、はやく解決してくれないと、この
ままじゃ人類は滅びてしまいますよ」
「大丈夫、目途はついているみたいだから」
「え、じゃあ、グール同士でも子供を作る事が
できるんですか」
「しっ!」
雪は藤木の口に指をたてた。
「この話はあまりここでは話さないほうがい
いわ」
藤木も話の重大性を悟ったのか、慌てて口を
つぐんだ。
「私ももう休ませていただくわ、一人での運転、
申し訳ないけど、いいかしら」
「あっ、どうもすみませんでした。お休みくだ
さい」
雪は車のシートを少し倒すと、そのまま目を閉じ、
藤木に背を向けた。
後ろの座席では、メイサが目を開け、首を傾げて
いた。
「グール同士では子供が出来ないんだ・・・」




