151話 本当に訓練されるんですか
三人が寝た頃を見計らって藤木が雪に小声で
囁いた。
「本当に訓練をされるのですか」
「勿論よ」
「伊集院博士は認めませんよ」
「黙っていればわからないわよ」
雪はいたづらっぽく笑った。
「笑ってごまかせることじゃないと思いますが」
雪はしばらく黙っていたが
「さっき幽厳村正に会ったでしょ」
「ええ」
「何か感じなかった」
藤木は遠くを見つめながら
「いいえ、特には」
「あの男、異種ミトコンドリアに乗っ取られたか
もしれないの」
「えっ?」
藤木は驚いた。
幽厳村正と言えば、ハンターの元締め的存在だ。
意志の強さも桁外れだと聞いている。
そんな幽厳が、ミトコンドリアに自我を乗っ取ら
れるとは考えられない。
「思い過ごしでは」
「あの時千秋ちゃんがいなかったら、私幽厳にやら
れていたかもしれないの」
「ご冗談を」
「本当よ」
さらりと言っただけに、雪の言葉には真実味が感
じられた。
「異種ミトコンドリアに取り込まれたグールはま
だいませんよ」
「当たり前でしょ、異種ミトコンドリアを持ってる
グールは少ないんだから」
「幽厳村正が取り込まれたと言う証は?」
「私のカン」
「カン?」
「それとあの妖力、今思い出しても背筋が凍るわ」
雪は目を閉じた。
幽厳村正から漂う妖力は未だ出会ったことない妖力
だった。
あの妖力は間違いなく、異種ミトコンドリアが発す
る妖力だ。
雪には確信があった。
雪自身の中にも、時折飛び出そうと画策する、あの
異種ミトコンドリアの存在があるのだから。




