149話 結論の相違
「これからの予定を案内します」
藤木が全員を起した。
ウタタネを始めた皆が、眠い目をこすりながら
起きるのを確認すると
「すみません、完全に寝られる前に報告して
おこうと思いまして」
恐縮しながら
「元木博士の研究所までおよそ600キロ、その
前にそこより50キロ手前の第三アジトで今日
は宿泊します。到着後、第三アジトでは30分
ほど休憩していただき、そのまま訓練に入ら
させていただきます」
「ええ、直ぐに」
メイサが早くも弱音を吐く。
「第三アジトって元木博士の近所じゃないか、
大丈夫なのか、そんな近所にアジトなんかが
あって」
力也が珍しく、まともな疑問を抱いた。
「言われてみればそうよね、ねえ大丈夫なの藤
木さん」
メイサが身を乗り出して藤木の耳元に顔を近づ
けた。
「皆さん誤解されているようですから説明させ
ていただきます」
雪が後ろを振り向いて三人に笑いかけた。
「元木博士と伊集院博士は元々はお仲間だったの
です。二人でグールの研究をされていたのです
が、結論の相違で別れられただけです」
「なあに、その結論の相違って」
雪はメイサを見ると、少し微笑み
「そのお話は今は時期尚早だと思うから、言わな
いでおくわ、でもいずれ話すことになると思う
けど、その時は自分達で判断してくださればい
いと思うの、元木博士の意見か、伊集院博士の
意見か」
「なんかぼやけた話ね」
メイサが鼻を触りながら首をひねった。
「元木博士の考え方は間違っています」
突然、藤木が唸るように叫んだ。
「藤木さん!」
雪には珍しく鋭い声で藤木を制すると
「言ったでしょ、人の考え方に正しい、正しく
ないは無いわ、置かれた立場で違ってくるだ
けなの、どちらにするかは個人が決めればい
い話なのよ」
「元木博士は考え方を変えるべきです、人は変わ
れるはずです、変わらなきゃいけないんです」
雪の制止も聞かず、藤木は唇を噛みしめながら
呟いたが、その言葉に千秋の表情が一変した。
血の気が引いたのだ。




