140話 このままでは逃げられないです
逃げようと言う雪に、千秋が無理だと言った。
驚く雪に
「バリアが張られました」
千秋が周りを指さした。
いつの間に張られたのだろう、霞のような帯
が千秋達を取り巻いていた。
「瞬間移動はあのバリアで跳ね返されます」
「千秋ちゃん・・・」
雪は驚いた。
雪ですら気づかなかったバリアの存在を千秋は見
抜き、さらにバリアの性質まで看破している。
幽玄が言うように、進歩の度合いが凄まじい。
ミトコンドリアの冬眠が溶け始めてまだ一日も経
っていないのに。
「な、凄いだろ、千秋の能力は」
幽玄が大きく口を開いた。
また、黒い異次元の世界が口の中に広がっている。
「俺が食ってやる、千秋も雪もそしてメイサも」
「そんなことをすれば、滅びるわよ」
「俺にとって地球が滅びようとそんなことはど
うでもいい、俺は生き続けるんだからな」
千秋には、雪と幽厳村正が何を言っているのか
わからなかった。ただ、幽厳村正がとてつもな
い化け物に変異していることは肌で感じること
が出来た。
幽玄は強いと言う表現より、無に近い恐怖だった。
存在はあるのに、実体がそこにない、無限のブラッ
クホールのような・・・。
「幽厳、何をしたいの。あなた」
雪が改めて幽厳に問うた。
「言ったろ、喰いたいんだと」
「今私達を食べても、あなたの願いは成就しな
いわよ」
「・・・」
「もっと、もっと、私達が強くなってからでないと、
あなたの野望は頓挫するわよ」
「俺の野望を知っているのか」
「勿論」
幽玄は雪を凝視した。
「なら、今すぐ食われろ、雪なら今すぐ俺が食べ
ても支障がないはずだ」
「私を食べることできるの、化け物の分際で」
「試してみるか」
幽玄は大笑いしながら一気に襲いかかって来た。




