136話 勿論殺したよ、俺様がな
「ゆ、幽厳」
突然現れた幽厳村正に力也は狼狽えていた。
長い間部下として働いてきた無意識の恐怖が、
力也の脚をすくませたのだ。
幽玄は片手に何かを持っている。
よく見ればそれは、べっとりと血が付いた人
間の腕だ。
「幽厳、貴様!」
力也が腕の犠牲者に気付いたのか思わず身体か
ら紫の陽炎を発した。
力也の理性が飛ぶ前兆だ。
「力也待ちなさい!」
慌てて力也を押しとどめると、千秋は力也の前
に出た。
「何をしてるの、幽厳」
鋭く言い放つ千秋に、幽厳村正は手に持った腕
を口に入れると、がりがりかじり始めた。
三人は思わず顔を背けた。
「うめえぞ、この手は、どうだお前らも食べて
みろよ」
幽玄は手を三人の元に投げてよこした。
「その腕の持ち主はどうしたの」
「勿論殺したよ、俺様がな」
幽玄が口を開けると、その口は途端に大きく開
き、その中は黒い無限の世界が垣間見えた。
グール特有の動作だ。
「あの野郎グールになっちまったのか」
力也が腕を武器に変え、二人の前に出た。
「待って、力也、様子が変なの、ただのグール
と違うわよ」
「待つわけにはいかねえ、あの野郎、俺の友達を
喰いやがった」
言うが早いか、力也は幽厳村正に飛びかかってい
った。




