11話 おかしいぞこのS級グールは
竹内力也の身体から紫の陽炎が発している。
まるでグール達のように。
竹内力也が今日までハンターとして生きてこれ
たのは、この紫に代わる特性のお蔭だ。
むろん普段とてそこそこ強い。
しかし頭に血が登り、理性を忘れると、この紫
の陽炎が体中から湧き上がる。
この陽炎こそ、力也の力を何倍もに増強する力
の源だった。
持続性こそないが、その瞬発力はハンター随一
と言われ、誰からも一目置かれていた。
今その陽炎が立ち上っている。
白グールに襲い掛かろうとする力也に千秋が叫
んだ。
「あのグールの弱点は眉間よ、眉間を狙うのよ」
「流石千秋、弱点を見つけるためにあの無謀な
戦いをしていたのか」
力也は大鉈を振り上げて、白グールにとびかかっ
て行ったが、それを又、幽厳村正が大声で止めた。
「よせ、行くんじゃない、それは罠だ」
罠と言われ、力也は慌てて突進をやめると同時に、
身体中から紫の陽炎が引いてしまった。
「何言うんだよ、幽厳」
「おかしいと思わないか、千秋」
幽厳村正は千秋に話しかけた。
「何が?」
幽厳村正は対面している赤グールを無視してゆっ
くりと千秋のもとに近づいて来た。
赤グールに背を向けても、赤グールは襲おうとも
しない。
「あいつら本気じゃない、遊んでやがる、俺達を
コケにしている」
「どうゆうこと」
「なんであいつらまとめて俺達を襲わないんだ」
力也も千秋もそれは思っていた。
後ろでずっとこちらを見ている青グールが出て
くれば、赤ん坊を抱いた女も、幽厳村正たちも
簡単に倒せるはずなのに、まるでわざとそうし
ない感じがしていたのだ。
「舐めてんだよ、俺たちの事を」
吐き捨てる力也に
「そこがおかしいんだよ、いいかグールはグール
化したら人間の理性を忘れるはずだろ、それな
のにあいつらの行動、組織立ってると思わない
か」
「それって」
千秋が唾を飲み込んだ。
「あのグール達、私達と同じ知性を持ったままグ
ールになってるというの」
「S級グールの資料は何もない。今だかって戦っ
て帰って来たハンターはいないからな」
「試してみるわ」
千秋は剣をしまうと、ゆっくり青グールに近づくと
咳払いをし、話しかけた。
「なんのつもり、これは」
「おい千秋、グールは人間の言葉を話せないんだ」
力也は白と赤グールに目をくばりながら、千秋に
囁いた。




