あるいは聖戦
また始まった。教授の椅子を巡る、はたから見ていると激しく微妙な戦いは、本人達にすれば重大な戦いらしい。教授、だから貴方の講義を受ける人がわたしと近藤くんしかいないんですよとはやっぱり言えません。ああ見えて教授は繊細な人なんです。
「さぁ近藤くん、」
「はい教授」
「今日こそ決着をつけようか」
「そうですね教授」
「近藤くん、」
「なんでしょう?」
「勝負の方法は何にするかね?」
「平等に勝敗が決められるものが良いかと」
「例えば?」
「…じゃんけんとか」
「ほう。ではあみだくじはどうだ」
「なら、あっちむいてほいで」
「ベーゴマ」
「面子」
「けんだま」
「ヨーヨー」
「…なんか昔の遊びになってますけど…」
「確かに」
「では、どうする?」
「そうですね…あ、」
近藤くんが何か思い付いたみたいです。コソコソと二人で話したあとわたしの顔をじっと見てきました。嫌な予感に暑くもないのに汗が一筋、首から背中にかけてツツーと流れていきます。まさかの無茶ぶりがきませんように!神様お願いします!
「かくれんぼをしよう」
「は?」
「俺達が鬼をやる」
「君はこの校舎内の好きなところに隠れてくれたまえ」
「先に見つけた方が勝ち」
「勝った者が君と椅子を得られる」
「え、わたしの意思は、」
「教授、何か言いましたか?」
「いや?」
「ちょ、近藤くん、!」
「…まぁ、安心しろ」
「東を見つけるのは俺だ」
不覚にも泣きそうになった。惚れた弱味ってことね。
あるいは聖戦
わたしにとっても聖戦だ。
(さぁ、隠れておいで)
(時間は100秒だからな)
(あ、一つだけ聞いてもいい?)
(なんだ)
(近藤くんの目的は、椅子?それともわたし?)
(……………)
(私は東くんだよ)
(じゃあ椅子はいらないんですか)
(……………)
END