ここはもう違う世界だ
バチバチバチ。あぁ、なんて熱い火花が散っているんだ。教授。近藤くん。わたしを挟んで睨み合うのはやめてもらえませんか、たかだか椅子一つの事で。なんて言ったら、熱い火花がわたしに向けられそうなので黙って一歩下がりました。
「なぁ近藤くん、」
「なんですか、教授」
「君は下剋上したいのか?」
「…いずれはします」
「今じゃ、ないのか?」
「今はまだ」
「ならばこの椅子は私のものだ」
「そうですね、」
「座る権利は私にある」
「それはどうでしょう。椅子というのはすべての人に平等です」
「所有者が座るものだ」
「では、公園のベンチは国のものです。役人しか座ってはいけないのですか?」
「あれは大衆向けに作られ、座ること許可されている」
「ふっ…ということは教授の椅子を俺が座っても問題はない、」
「ある!私は許可しておらん!」
「…あのー、帰って良いですか」
「ダメだ」
「許可出来ない」
「(私がここにいなければならない理由がわからない。ホント意味がわからん人達だ!)」
そのままわたしは流されるように教授と近藤くんの不毛な言い争いを聞かされました。あーでもない、こーでもない、と、何故そこまで椅子に対して執着出来るのかわたしには理解しがたいのですが、当の本人達は至って真面目に真剣にお互いの主張を繰り返しています。
「しかし残念ですね」
「何がだ?」
「教授、来年にはあの椅子は俺のものです」
「ほう…なら彼女は私が貰おう」
「……………お好きにどうぞ」
「そうは見えないがね?」
「(え、あれ?)」
「まぁ良い。では君は私の、」
「ストップ」
「東は俺が好きなんです」
色んな意味で泣きたくなった。
ここはもう
違う世界だ
(わたしはどうすれば…)
(さぁ)
(簡単だ。私のところにおいで)
(それはやめた方がいい)
((…教授と近藤くんは何がしたいのだろう))
END