焦がれることに似ている
気が付いてしまった恋心はどうしたらいいのでしょう。わたしは好きになってはいけない人を好きになってしまったようなのです。人はしてはいけないと言われる程、したくなる生き物ですが、本当に困ったものです。
「近藤くん、」
「なんだね」
「、好きな人が出来た」
「それは良かったじゃないか」
「だけどさ、」
「どうした?」
「好きになっちゃいけない人を好きになっちゃったのよ」
「それは困ったな」
「うん、本当に困ってる」
「で、相手は誰なんだ?」
「言わなきゃダメかな」
「"いけない"にも程度がある。相手によっては平気かもしれない」
「近藤くん」
「それはまずい」
「やっぱり」
「困りものだな」
「ホントにね」
(なんで私はこやつが好きなんだろうか)
「なんか言ったか?」
「んーん」
「そうか。ま、男なんかいくらでもいる。次だ、次」
わたしは研究室の背のない丸椅子に座り、近藤くんは教授の椅子に(本人不在を良いことに)どっかり座り込んで黙ったきり何も話しませんでした。そんな雰囲気の中で一緒にいることが、ちくちく痛いような、それでいて心地良いような。わたしはマゾヒスト?しかしこの空間を破壊出来ないのは確かです。
「お前はつくづく見る目がない」
「何が?」
「俺の口から言わせたいのかい?」
「すいません」
「しょうがない、許す」
「……ねぇ」
「なんだろうか」
「眼鏡…コンタクトにしたり、」
「断る」
「東にもっと好かれても困るからな」
本当に腹の立つ男だ。何故好きになんてなったのだろう。
焦がれることに似ている
溺れる魚も、こんな思いをしているのかもしれない。
(あ、教授)
(なっ、まずいぞ)
(知らないよ)
(……来年にはこの椅子は必ず俺のものに!)
(はいはい頑張ってー)
END