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焼け焦げて、まだ至る所から煙が立ち昇っている黒い地面。ロイドは、そこに折り重なるようにして物のように倒れている死体を一つずつ確認していた。綺麗なものも中にはあるが、死体の殆どは酷い状態で、生きているうちか死んだ後なのかに砲弾に焼かれたり、その後に燃え移った火に炙られたりしたのかで酷い火傷を負っていたり、そうでなかったら剣で頭をかち割られていたりで元の姿が判然としないのもたくさんある。体のどこかの部分が無くなっていたり、弓矢が至る所に刺さっているのもあった。

その一つ一つの顔を検分して自分の隊に所属していた者の形跡を認めれば、その体を探ってバッジを外し、それを腰につけた袋に入れる。その袋は既に、ずっしりと重くなっていた。

「ロイド、いい加減にしておけ。きりがない」

瓦礫の一つに腰をかけてわざと無関心な態度でパイプをふかしていたジェラードが、とうとう見かねたようにそう声を掛けた。パイプの煙で輪を作って遊びながら、軽い口調で言っていても、どこか真剣さを感じさせる声だった。

「そろそろ戻らないと、団長に益々目をつけられるよ」

「……先に帰っていてくれ」

ロイドが言うと、ジェラードは呆れたという顔をして肩を竦めた。

「君がまだここに居たいというならば、まあ付き合ってもいいけどね。俺は残念ながら、もう既に団長には嫌われている」

そこまで言って、ジェラードはパイプの灰を落として、それを機会にパイプをしまう。そして、頬杖をついてロイドの行動を眺めながら、呟くような小さな声で諭すように話し出す。

「だがね、考えてみたまえ。毎回、君がこうして戦が終わるたびに戦場に戻って来て、できる限りバッジを集めようとしているのは偉いとは思うが、良く考えてみれば死んだ者は姫君に悼んでもらったってそれを感じる事もできないんだぜ?それなのに疲れを我慢して、危険を冒してバッジ集めをするのは、徒労じゃないか。その上、戦場の跡は酷い臭いがするし見た目だって凄惨そのものだ。決して精神的にも良いとは思えないな」

ロイドはそれを聞こえないふりをして死体を検分し続けた。確かに、様々なものの焼ける臭いが交じり合って嫌な匂いが立ち込めているし、見た目的にも目を背けたくなる光景だ。だが、ロイドはそれに馴れていたし、何よりも義務感と罪悪感のようなものがあった。連隊長としてその隊を預かりながら、彼らを死なせてしまった事。それならばまだ他の隊長や連隊長と同じ程度だ。自らの力が及ばない事への自責はあるにしても、ここまで酷いものではない。だけど、ロイドが自分を責める理由はそれだけではないのだ。

それは、四年ほど前に、凱旋として一時的に王都に戻った時に城に呼び出されて姫君に聞いた事が原因になっていた。凱旋と言っても、ロイドの師団が差し向けられた軍隊にその場限りで勝ったという程度のものだから戦況には大して影響はなく、ましてや戦争を終わらせるような力があったわけでもないのだが、それでも勝ちは勝ちだと言う事で、国を活気付けるために凱旋パレードが行われた。それは、それまでも何度か行われていたし、そのために王都に戻るたびに、ロイドは姫君に個人的な呼び出しを受けていた。

ロイドは毎度、それが憂鬱ではあったのだが、それでも間違っても王族からの呼び出しに王家に仕える立場の騎士団員である自分が逆らえるわけはない。それで、渋々城に足を向けるのだった。

姫君の目的は分かっていた。いつもいつも、甘い言葉やその白くしなやかな体を使ってロイドを誘惑しようとするのだ。その度にロイドは、声を荒くして拒否し、姫君に恨みがましい目で見られるのだった。

ロイドと姫君は、そもそもロイドがまだ騎士団に入団する前、貴族の一人息子として城に出入りしている時からの知り合いだった。その頃は隣国からの求婚の話も勿論出ていなかったし、ロイドも姫君が潤んだ瞳で見つめてくるのを満更でもなく思っていた。いや実際、まだ若く野心を持っていたロイドにしてみれば、王家の姫君を手に入れてあわよくば王座を、という事も考えないでもなかったから、かなり乗り気であったと言って良い。当然、姫君に対してその程度の思わせぶりな態度も取ったから、姫君が期待したのも無理はない。だが、その一方で、ロイドは常に冷静だった。

隣国の皇子が姫君に対して求婚をしたという話を聞くと即座に手を引こうと考え、周囲が姫君に流され、戦いの方向に流れていく中で口を酸っぱくして姫君を無理矢理にでも差し出して戦争を避けるべきだ、と主張した少数の人の中に、ロイドも入っていた。姫君はその時、ロイドを激しく罵り非難した。自分はロイドのために求婚を断ったのに、と。だが、ロイドはその気持ちを受け容れず、これ以上姫君の気持ちが熱されるのを恐れて、既に騎士団には入っていたのだが、志願して王都で城を守る第一師団ではなく、戦場で戦う第二以降の師団に下ったのだ。

それなのにこうして、凱旋のたびに姫君はロイドを呼びたて、誘惑する。

「同胞たちがあなたのために死んでいっているのに、私があなたを手に入れることはできません。皆があなたのために戦っている以上、あなたは誰か一人の物になってはいけない。それは、彼らを裏切ることになります」

ロイドはそのたびにこう言い聞かせて諭すのだが、姫君は決まって「私はただの一人の女です」と言って泣き崩れるのだった。

―――ただの一人の女のために、こんなにも人が死ぬまい。

ロイドはそう、苦く思う事が度々だった。

だが、それでいてこの姫君に愛されているという事はロイドにとってやはり同胞に対する負い目と罪悪感を感じる事になっていた。

同胞たちは皆、皆、姫君に恋をしている。それなのに、自分一人が姫君に愛されている。

それが、なんとも後ろめたかった。


「まあ、流石に慣れるというのも確かな事だが」

ジェラードが軽く鼻で笑うようにしてそう言ったので、ロイドは耳を傾けた。

「もうこんな戦が続いて六年だ。古い同僚の中で生き残ったのは僅かに俺と君だけだぜ?部下たちも大分入れ替わっている。死んで行った知り合いを数えたら、軽く3桁には到達する」

その調子には、誰に対するとも知れない嘲りが混じっていた。

ジェラードの言うとおり、戦争は始まってからかれこれ6年も続いていた。初めの頃は威勢の良かった隣国だが、実はその国は他国とも戦争をしていて、この国ばかりに軍を割けるわけではなかった。そこで、戦法をかえたのだろう。隣国にとっての目的は姫君ひとりきり。全力で叩く必要もない。そこで、こちらが降伏して姫君を差し出すのを待つように、生かさず殺さず、小出しに攻めてくる方法に出た。それに対して、こちらはただそれに応戦するのみ。そうやってずるずるとしていくうちに、いつしか6年もの歳月が経ってしまったのだ。

隣国にとっては大した損失はないかもしれないが、戦場になるのはすべてこちらの国になってしまっているのでこちらには被害が大きい。その上、戦費で国庫は圧迫され、税は上がり、国民は苦難を強いられるようになった。兵の数も減っていくが、だからと言って国庫に余裕があまりないために傭兵を雇うわけにもいかず、民間の志願兵を募集する始末だった。

「最近は特に酷いね。銃の扱い方も、剣の握り方も知らん連中が参加してくるようになったから、規律が乱れて困る、と副団長殿が嘆いていたよ」

「だが、彼らの方が死なないのは評価できるだろう」

ロイドが言うと、ジェラードは苦笑して頷いた。

「君はお優しいな。確かにヤツラは、食い扶持の確保が目的だから敵に遭えば戦わずに即座に逃げ場所を探してるからな。……姫君に一度もお目通りした事がないって言うのは、ヤツラにとっては幸運だったろう。元々の団員は姫君にお目どおりをした事がないなんてと自分のほうが得をしたような気になっているようだが、それは違うね。見なけりゃ、心を奪われる事もない。あの、恐ろしいまでに人を惹きつける美しさに惑わされる事もないんだ」

ジェラードは苦々しげに言って、自らも腰につけた袋を手に取る。そのずしりとした重さに、大きく顔をしかめた。

「俺が思うに、あれは、魔女だね。でなけりゃ、説明がつかない。たった一人の、自分のためにコレだけの人間が命を投げ出しているのに平然としている事ができるその神経のさ」

「魔女ではないだろう。ただ、とびぬけて愚かなだけだ」

ロイドは冷たく言い放った。ジェラードはその声に、少しだけ驚いたように袋から目を上げてロイドに視線を移す。

「お優しい君にしては手厳しいお言葉だな。……お互い、他のヤツラに聞かれたら殴り殺されるぞ」

それから、立ち上がってロイドの隣まで行き、横からその手を掴んだ。軽く振り払おうとしたロイドは、その思いがけなく力の込められた手に驚いて顔を上げた。見上げた先に、ジェラードの真剣な瞳がある。

「本当に、もう行こう。これ以上はどうあっても、留守を誤魔化せない。忘れるな?お前は死んだ奴より先に、生きているヤツラの上司だって事を。それから、お前はまだ生きてるんだって事もな。上司に目をつけられるのは、お前が生きていく上で得策じゃないよ」

ロイドが反論しかけたのを遮って、ジェラードはロイドの腕を持ち上げるように引っ張りながら更に続けた。

「お前には、死んで欲しくないんだ。……この戦争が始まる時、騎士団の中で反対したやつで生き残ってるのは俺とお前しかいない。こんな戦争、いつまでも続けてるのは狂ってるって思うのに、他のヤツラがそれが正しいと思ってるんだ。頼む、俺をこの狂った中に置き去りにしないでくれ。お前だけはせめて、俺と一緒にこの戦争を生き抜いてくれ」

切実な声は微かに震えていた。

「アルフもベンもジーンも、みんないなくなった。お前だけが正気なんだ。なのに、お前を見ていると不安になる。時々、死にたがってるんじゃないかって思えてくる」

ロイドはようやく力を緩めて、引っ張り上げてくる腕の力に従った。

ジェラードの張りつめていた瞳が微かに緩み、熱してしまった自分を恥じたように少し言い訳をするように続けた。

「姫君に恋していないのは、君と俺だけなんだよ。その点で俺は君を案外評価しているんだ」

「それは、ありがとう。伊達に6年間も一緒に戦ってきたわけじゃないな」

二人は早足に歩いて宿陣に戻る。

近づくたびに、休憩時間のはずなのに何故か普段と打って変わって静かなのが異様に感じられた。

「何かあったのかな?」

ジェラードがぽつりと言う。ロイドは何か嫌な予感に眉をしかめた。

初めの頃は人死にが出るたびに暗い雰囲気だった宿陣も、近頃では慣れっこになっていてそんな事を気にする余裕もなく騒がしかった。逆に、賑やかにしなければやっていられないと思ったのか、兵士たちは気を紛らわすために休憩時間にはなるべく騒がしくしているような印象を受けた。確かに、静かなことも度々あったが、それは騒がしいのが障ってしまう病人などがいたり、稀に賓客が訪れていたりした場合で、今感じている静かさはそのどれにも該当しないような、何か重いものを含んでいるように感じられた。それに加えて、これは直感としか言いようがないが、その静寂はどこか禍々しい予感を孕んでいるようにロイドには思えたのだ。

二人が近づくと、その姿を守衛が認めて駆け寄ってくる。その面持ちは、切羽詰ったものだった。

「どうした?」

ロイドが尋ねると、守衛はもどかしそうに話し出す。

「は、フォーブス夫人とおっしゃられる方が是非クロフォード連隊長にお話があるとこちらへいらっしゃいまして、団長がお探ししたのですがみつからず……」

そこまで言って、守衛は後の言葉を継ぐのをやめた。上目遣いで窺うようにロイドを見る。

ジェラードがロイドの隣で額に手を当て微かに首を振った。

「いつかこうなると思っていたんだ」

そう、小さな声で呟いた。

クロフォードと言うのはロイドの姓だ。ロイドを訪ねてきた者がいて、ロイドを探してみれば部屋にも宿陣の中にもどこにもいない、といって問題になっているのだろう。

「分かった、ありがとう」

ロイドは守衛にそう声を掛けて中に進む。

「団長にみっちりとしぼられるぞ」

ジェラードが顔をしかめてそういいながら、早足で団長のテントに向かうロイドの後を付いてくる。

「ジェラードは来なくても良い。俺ひとりが罰を受ければ。元々、付き合ってくれていただけなんだから」

「そうは行かないだろう。団長の事だから、お前がいないって分かった時点で点呼を取っていないやつを確認してるよ。済まないと思うのなら、明日にでもワインの何杯かでも奢ってくれ」

軽い口調でそう言って、ロイドの肩を叩くと、ジェラードはテントの外から失礼します、と声を掛けた。中から答えが返ってきて、ロイドが名乗ると、入室の許可があって、それでロイドは部屋に入る。

軍事作戦用の机を挟んで向こう側に団長の厳しい顔が、そしてこちら側には見知らぬ女のほっそりとした姿が振り返って注視するようにロイドを見ていた。

「どこへ行っていたのだ?」

「申し訳ありません。少し散歩に……」

ロイドは怒鳴られるのを予想したのだが、意外にも返って来た言葉は落ち着いたものだった。

「本来ならば即座に処罰するところだが、このご夫人がお前に用があると言って聞かなくてな。どうしてもお前以外には話さないというので、先にお聞きして差し上げなさい」

口調に少し苦い物を含ませて、団長はそう言って目の前の女を指した。その女は、黒い髪を後ろで一つにしっかりとまとめていて、着ているものもあまり上等だとは言えない上にくすんだ色合いの服を着ていた。それでも一見質素で地味に見えるのに、どこかその顔には凛としたものが宿っているようにも思える不思議な印象を受けた。その主たる原因はすっと伸びた眉と意志の強そうな緑の瞳のせいかもしれなかった。年の頃はロイドよりもいくつか年上のように見受けられた。

「……失礼ですが、お名前をお聞きしても?」

「ええ。私は、ホリー・フォーブスと申します。といっても、お心当たりはないと思いますけど」

ロイドは少し首を傾げるようにした。このご夫人は心当たりがないが、その姓には、覚えがある。

「いえ、もし間違っていなければ、フォーブスという名には一人心当たりがあります。宮廷学者でいらしたケイ・フォーブス氏とご関係が?」

過去形にしたのは、その人が既に故人だったからだ。ロイドは過去に政治学の講義をその人から受けたことが印象的で憶えていたにすぎないのだが、三年ほど前に亡くなったと聞いた時は惜しい人を亡くしたと思ったものだった。ロイドのその問いに、夫人は少し表情を緩めた。

「夫の事をご存知でしたの。ええ、私はケイの妻ですわ。でも、本日は夫のことで参ったわけではありませんの」

そう言って、夫人はちらりと団長と、外から覗いているジェラードに視線を走らせた。

「内密のお話をしたいのですけど、どこか静かな場所はありませんかしら」

側で聞いていた団長が不快気な顔をするのを目の端に捉えながらも、ロイドは頷いて言う。

「ならば私の部屋に行きましょう」

そう促して、ロイドは団長に挨拶をしてからテントを出た。ついでに、ジェラードにも牽制をしておくと、ジェラードは薄く笑って「借りは高くつくぞ」と言った。

ロイドのテントに入ると、夫人は少し不安そうにその中を見渡す。それから、実際にその不安を口に出した。

「本当に、ここは他の方に聞かれる心配はありませんの?」

「さて。だが、残念ながらここしか二人きりになれる場所というのは思い当たりません。……何を、そんなに警戒されているのですか?」

ロイドが問うと、女は僅かに息を吐いて緊張した面持ちで答える。

「あなたを呼び出してもらうために、事の一部を打ち明けてしまったからです、私が話す事の内容を、あの人達はきっととても聞きたがっているでしょう」

「どう言う事ですか?」

「姫君の事で、重大な密告があると私は申し上げました。……この国の男の方々は、姫君と申し上げると少し熱くなりすぎますわね」

その言葉には、僅かに棘が含まれていたように感じた。ロイドはそれにはあえて触れずに話を続ける。

「それで?その話とは?」

すると、そこで改めて夫人はロイドの顔を品定めするようにじっと見つめた。そして、しばらくすると不意に目を逸らした。

「あなたはきっと、騎士団の中では物の分かった男だ、何人かの数少ない信頼できる人だと夫が言っていました。だから、私はあなたに話すことにしたのです。でも、どうかお願いします。このことのせいで、あまりひどい事が起こらないように、寛大なご処置を」

ロイドは突然そう懇願するように話し出した夫人に困惑の目を向けた。夫人は構わず続ける。

「私は、夫が死んでから実家に帰って娘と共に暮らしています。息子も一人いたのですが、先日戦死したとの報が届きました。それで、ようやくこのことを告げる覚悟ができたのです。自分の息子が死んで、痛い目を見ないとそれをする勇気を出せなかった……」

夫人の声はそのような事を話すには淡々とした口ぶりだった。だが、その一方で夫人の膝に置かれている手がスカートの布をきつく掴んで何かに耐えるように細かに震えているのもロイドは気が付いていた。

「私の実家は、弟が継ぐことになっています。ですが、一番上の弟は今は騎士団に入って戦争に出てしまっているので生きていたら、の話ですが。その弟の名前はジェレミー・アーチャーですわ」

その言葉に、ようやくロイドは心当たりを感じた。その名前には聞き覚えがある。ロイドの率いる連隊の中にそんな名前の男がいたはずだ。黒髪の、人懐っこい印象の青年で、隊に入ったばかりの頃、何度か犬のようにロイドの後を付いてくる事もあったので慕われていたのだろうな、という印象はあった。だがそういえば、ここ数年あまりそのような姿を見ていない。

「弟はあれでも下級貴族にあたりますから、一応姫君への閲覧の権利はございますの。あなたの事を、始めはとても尊敬していて、あなたと同じ髪の色と目の色をしている事を誇りにしていて、いつかは連隊長のようになるんだ、なんて言っていたんですよ。でも……」

夫人は戸惑ったように視線を泳がせる。何か、決定的なことを口にしてしまおうか、この期に及んでいまだに迷っている印象を受けた。

「どうしたのですか?」

ロイドが促すように問いかけると、夫人はそこでようやく決心をしたように顔を上げた。その瞳は、何か痛ましい物と必死に抑え付けているようにも見えた。

「あの子は、罪を犯しました。……今、私の実家には姫君とあの子の隠し子がいらっしゃいます。御年四歳になられます」

信じられない言葉に、ロイドは目を見開く。一瞬、何を耳にしたのか分からなかった。

夫人は吐き出すように一気に言葉を続けた。

「両親は、エマ様を利用しようとわざとお隠ししています。邸の奥深くに。姫君が何の関心も示さないのを良い事に」

そうして女は、深く深く頭を下げた。

「どうか、私の実家を罰してください。そうして、この事実が広まればきっと、戦争は終わりになるのでしょう?皆さんはきっと、姫君に裏切られたとお思いになるでしょうから」

ロイドはどう処理して良いか分からずもてあますような複雑な感情の中にも、確かに目の前の女性の聡明さと勇気に感嘆を覚えずにいられなかった。

―――そのために、わざわざ女の足でこんな場所まで。

そして、この夫人の願いをなんとしてでもかなえなければ、と強く思ったのだった。

まさか、それがどんな結果を及ぼす事になるか知らずに。

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