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何の変哲もないショートショート集

謝罪戦隊 ごめんジャー

作者: ぐらんこ。

「計画は順調に進んでおるのだろうな」

 垂れ幕の向こう側から深く澱んだ低い声が聞こえる。

 その声を聞き、3人の幹部の内の二人は恐れおののきながら、それぞれに弁解を口にする。

曰く、

「いやはや、それが、計画を邪魔立てする輩がおり、吾輩、幾度と無く煮え湯を……」

曰く、

「あの小僧共さえ現れなければ、今頃はわたしの送った陰粘獣が瞬くまに世界を……」

 云々。


「え~~い! やかましいわい! 言い訳なんか聞きたくないのじゃ。一刻も早く世界を我が手中に。

 なんか無いのか? よい作戦。良い提案。ほれ、はよ考えろ。ほれ」

 声の主は、先ほどと同じく垂れ幕の奥に鎮座する組織のリーダであるはずだが、声のトーンが明らかに変わっている。顔の右側と左側で別人格が備わっているとか?

 ごく最近、自分達の信じた『これは完璧!』という作戦が失敗に終わったばかりの二人は、目を伏せ黙りこむ。

 反省文の提出や部下への有給休暇の取得勧告など、課題が山積みで、しばらく作戦立案どころで無い。


「お恐れながら、此度は私めにお任せくだされば」

「おお! クレーム将軍よ! ではお手並み拝見といこう」

「ははぁ」




 ナンパ? ナンパというには状況的に無理がある。

 ハンバーガーショップの店員と客――厳密には客ではなく、カウンター前で商品を買うでもなく延々と店員を口説きにかかる赤いジャケットの若者――である。


「だから~、前から言っているじゃん。やばいんだって! 5人揃わないと。メカもロボに合体できないし。

 敵が巨大化したときに対抗する手段が無いんだって! 絶対そろそろ巨大化してくるはずなんだって」

「今バイト中なんで。ホントに、いい加減にしてくれませんか? そろそろ、お店も混み出して来ると思うので」

「バイトと世界とどっちが大事なんだよ! ったく。いいよ。また来るよ。でも、敵が現れたときは召集に応じろよな!

 変身と通信用のシャウォッチは常時装備。よろしく頼むぜ!」


「どうだった? どうだった? イエローどう? やる気? やる気全開?」

 レッドが店から出るなりキャピキャピと詰め寄ったのは、店内での様子を一部始終観察しながらも、その雰囲気から何も察することのできなかったピンク――白を基調にしながらも、薄紅色のベストとコケティーなミニスカートが良く似合う少女――だ。

「駄目! 無理無理。やる気全壊」レッドは欧米並みに派手なジェスチャーで答える。

「ぜ・ん・か・い? ああ全て壊れるの方ですね。こりゃいいや」

 そう応じたのは5月だというのに、燦々と照りつける太陽にやられ、こめかみを伝う汗を拭うのに必死なグリーンだった。

「…………」

 ブラックは、自分本来の性格とはかけ離れた無口でニヒルなキャラを貫こうと、だんまりを決め込んでいる。


「いったい全体どうしたもんか…………」

 とレッド。

「いやだよ。わたし女の子一人は。今回は女の子が二人でしかもピンクが貰えるからって条件で引き受けたんだから!」

「イエローに選ばれたのはあの娘ですし、謝時計も、着けちゃってますからね。何とか説得して戦隊に加わっていただかないと」

 懐から取り出した扇子で、顔面を扇ぎながらグリーンも同調する。


 しばし無言で、考え込んでしまう4人。

「ちょっとあんた達! 店のまん前で突っ立ってたら邪魔でしょうが!」

「あっ! 失礼しました」

 彼らは、ハンバーガーを買いに来た中年女性の通行を妨害してしまっており、異口同音に謝罪の言葉を口にした。


 そのときである!!

 彼らの口をついて出た申し訳なく思う気持ち、それを具体化した言葉、5人の気持ちが一つになったその『お詫び』を、腕に装着した<シャウォッチ>が感知し、静止軌道上に位置する母船へ変身シークエンスの開始が半自動的に要望される。


母船内で待機しているスーマノイド<GOMERIN-CO>がその要望に答え、結構時間をかけながら地球上へ『ワービーム』を照射する。

<シャウォッチ>の受光部がそのビームを受信することで、彼らは人智を超えたずざまじい、いや、げざまじい戦闘力を誇るアクションスーツ姿に変身することが出来るのである。


 目まぐるしいカット割! 息をつかせぬアングルチェンジ!

画面が突然5面に分割される。中心にレッド。その周辺にその他4人。手始めは手首の<シャウォッチ>のアップ。

 その後、各画面で彼らの足元、だいたい膝から下くらいが大写しになったかと思うと、その薄汚れたスニーカーやら、ゲタやら、営業で擦り切れた革靴やら、絆創膏だらけの素足やらと脛のあたりが輝き、各色のタイツと純白のブーツ姿に変貌を遂げる。


 煌く手元でも同様の変身シーン。

 そして、腰に装着されるのは45°の最敬礼をモチーフにしたイカすバックルの黒ベルト。

とりたてて、言うべきもののないありがちなデザインの胸元をなめて、ついに顔面へ。

 土下座をした時に地面と額の距離を測るメジャーが内臓されたヘルメットが装着され、レッドシャザン(アカレンジャーみたいなもの)等への変身が完了する。

 そのままレッドは中央で決めポーズを取り、残りの4人がその脇を固める。


 敵が見惚れてくれているのをいいことに5人が5人とも順番にだらだらと名乗りを上げる。

「すまんじゃすまん。そこを何とか! レッドシャザン!」

「それはあれだね、つまりは、僕の落ち度だね。 ミドシャザン」

「許してちょんまげ! ピンクシャザン」

「悪りぃ。ブラックシャザン」

「例えば、申し訳ありませんでした。と言えば許してくれますか? イエローシャザン」


 そして、5人が声を揃え

「遺憾戦隊 ごめんジャー!!」

 で、締めくくり。背後で5色の火薬が派手に爆発してようやく戦闘開始の運びとなる。


 本来であれば……。


 本来ではないので、彼らは私服のまま、バーガーショップの前で無為に時間を過ごしている。

 5人が揃って詫びる気持ちを持たない限り満足に変身することもできないのが現状であり、イエローを過密シフトのバイトで欠く彼らが今直面している死活問題なのであった。


 そのころ店内では、先ほどイエローを除くごめんジャーの面々に謝罪させた中年女性がカウンターでも何やら文句を付けていた。

「ちょっと、わたし、てりやきセット頼んだはずだわよ。なによこれ。BLBなんて食べないわよ」

「すぐに作り直させますので」

「すぐって、何秒よ! 待てないわよ。店長呼びなさい、店長。ただでナゲット付けなさい。ソースは2種類とも頂戴!」

 この、取ってつけたような文句。不自然な難癖。

 

 そう、彼女こそがクレーム将軍の送り込んだ手先、『猫科の肉食獣がでかでかとデザインされたシャツを着込みぴっちりしたパンツを履きこなす大阪によくいるオバちゃん』形の陰粘獣のさらなる強化版である『カバンには飴ちゃんがいっぱいでそもそも飴に<ちゃん>付けすること自体が関東では認知されていない事実らしい』形の陰粘獣、その名も『中年女性』であった。



「ねえ、みんな。やっぱり私もイエローやる。一緒に闘うわ!」私服に着替え、バーガーショップを後にしたイエローは未だに店前でたむろしていた仲間達に駆け寄った。

「……でも、見てたのよ、俺達」と赤。

「逆ギレして、」とは青の言葉。

「あのオバちゃんを素手でやっつけちゃったとこ」桃が続ける。

「……」

「だって、だって、あれって陰粘獣だったでしょ。平和のためでしょ!」黄の抵抗。

「でも、あの時は、まだ正体もわかってなかったし……」

「おそらく、いや、大多数の人間が」

「それなりに謝ってやりすごすとこだと思う」

「向いてないよ。君は。陳謝戦隊には」耐え切れずにブラックも本音を漏らした。


「そ、そんな……バイトクビになって暇になっちゃったのに~~~~!!」

 

イエローの叫びが満開のハナミズキ並木通りに虚しく響き渡った。

 ~fin~


◆◆◆◆◆◆


「みんなは悪いと思ったら、素直に謝ろう! シャザンレッドからのお願いだよ!」

本作には続きがあるのですが、

純愛ものになっております。


是非是非、セットでどうぞ。


http://ncode.syosetu.com/n7181bq/

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