最悪の晚餐
「……」
「……」
「……」
微かな金属の音以外何も聞こえない。
今、食事中だということは分かっているし、こんなフルコースの食事を前に話をするのはマナー違反なのは十分に分かってはいるのだけど…。
運ばれてくる料理はどれも綺麗で美味しいのだろうけれど、こっちも気を張っているものだから味気ない。
正面の星皇は優雅に、右隣の(お誕生席でいいのかな)星帝も当然のようなマナーで当り前のように皿の食物を口に運ぶ。いくら父様に教わったとはいえ、年に一度あるかないかの実践付け焼刃マナーの私ではかなり不安だ。
もうこれからずばっと言ってやろうと思ったのに…。
「お食事の支度が整いました」
の声にタイミングを外され、あれよあれよと言う間に侍女という名のお姉さんの勢いと迫力のままに別室で着替えをさせられ、食事をするべく席に座らされた。
天井には燦然と輝くシャンデリア。
長くはなかったけどシミひとつないテーブルクロス。
あちこちに飾られた見たことがないなぜか光を燈している花。
これには驚いたけど、この花どこかで見たことあるような…。それに何故鉢植え?
まぁ切り花にしたらもったいないくらいきれいだけど。
これが誕生日の食事とは思いたくない。
いつもの誕生日は母様特製のちらし寿司を中心に私の好物が並び、みんなが笑顔で食べたり、飲んだり。近所のみんなも差し入れを持ってやってきてワイワイとそれは賑やかで…
「口にあわぬか?」
いつの間にかそばにきていた給仕だと思われる紳士が、減っていない食事の皿を見てとまったのに気付いた星帝が声をかけてくる。
感傷にひたる暇もないのね。
「…いいえ。とても美味しいですわ。ただあまり食が進みませんの」
こんな時でも笑顔ができる自分。
これは意地なのか、それとも…。
「移動のお疲れが残っていらっしゃいますか?」
星皇が心配そうに声をかけてくる。
「そうかもしれませんね。…失礼なのは承知なのですが下がらせていただいてよろしいでしょうか」
少しうつむき加減で尋ねる。
「勿論だ。部屋に案内させよう」
「ありがとうございます」
部屋が用意されているのか…とうんざりした心を隠しつつ、笑顔で星帝にお礼を述べる。
正直限界だった。
体ではなく心が…。
立ち上がって一礼。
食事を残すなんて爺様が知ったら怒られるわ。
思わず苦い笑みがこぼれた。
昼とは違うパーティ。
一応、従兄という身内との食事だったが私にとってこんなに哀しい誕生会(?)は初めてだった。
突然のダウン。誕生日は特別な思い入れがあったらくじけやすいもの。
ところでテーブルのお誕生席といわれることがある一番偉い方が座る席に正式名称あるのですか?