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86 和田氏に与えられた侮辱

 三月九日 晴 突然、黄土色の水干に麻に似た葛袴を着けた堂々の姿で和田義盛が一族九十八人を引き連れて、御所にやって来た。大蔵御所で一番広い、池を造作した南庭に、上等の着衣をつけた九十八人の猛者が美麗な刀を横に置いて座する眺めは壮観なものであった。義時はこの席には顔を出さなかったが、その様子は御簾の影で良く見て取れた。実朝は義時の差配であらかじめ出席を止められた。義時にはある考えがあったのである。今日までは、義盛の振るまいに眼をつぶっていたが、今日の異常な和田氏の示威を見て、これ以上はのさばらせてはおけないと強く決意させるものがあった。それは考えと言うより激しく闘ってきた者だけにわき起こってくる感というものであった。こやつは放っておけば、必ず北条の強烈な敵となる!といった恐れにも似た感情である。今日は義盛の鼻をへし折ってやるつもりだ。そうして謀反をおこさせ族滅させてやるのだ。近頃義盛は将軍に持ち上げられて、いい気になっている。今日は義盛にたっぷり赤恥をかかせてやるのだ。

 和田一族の前に幕府代表として出てきたのは中原広元であった。和田義盛は立ち上がって、野太いしわがれ声で言う。

「今度の、謀反という疑いは根拠のないものでございます。自白する者が和田の者の名をあげておりますが、本人達に確かめましたが、そのような企てがあることを耳にすることも初めてという事でありました。真偽を確かめるため本人の郎党などにも尋ねて見ましたが、まさに演技ではなく、謀反を起こすなどと言うことは聞いたことがないと首を傾げておりました。又、一族の者で、今度嫌疑がかかっております者から、そのような謀反の企てに声がかかった者は一人もおりません。されば、どうか、一人許されず嫌疑がかかったた和田胤長(たねなが)を無罪としてお許し下さりたいと、御所にやってまいりました」この言葉を広廊下に座して聞いていた広元は言う。「御所の調べでは、和田胤長謀反共謀の事は、嫌疑が確定している者達が口々に申している事だ。火のないところ煙はたつまい。まして胤長は共犯どころか首謀者であるとの事も調べで上がって来ている。よって和田胤長は無罪とすることは出来ない。これは幕府一同の固い申し合わせだ」

「中原氏、野党の様な者の証言をもってして和田胤長を罪に落とし入れようとなされるのか、それは非道というものではありませぬか」「今度謀反の首謀者としばしば会合を持ったと言うことも伝わっておっては和田胤長を無罪とすることはできんのだ」広元はそう言うと、控えていた侍に目で合図を送った。

 和田胤長の身を預かっていた、金窪行親かなくぼゆきちかと安東忠家が後ろ手に縛られた胤長を引き連れて木戸から現れた。オウという怒りのこもったどよめきが一同の者からおこった。武士という者にたいしてあまりに失礼な仕打ちではないか。これ見よがしに、金窪らは胤長を、廊下の下に立つ広元の横に立っている二階堂村と下司二人に手渡した。(行村は監獄の長であるのだ)


 この、恥を与えようという義時の意図が見え透いた、あまりにも演劇めいたやり口に和田義盛は猛烈に怒った。「おのれ、我らにこのような恥をあたえおって、義時、この近くにおるであろう、許しては置かぬぞ!者どもかえるぞ!」と吠えるように大声を上げてどやどやと帰って行った。

 義時は御簾の影で表情を変えない。


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