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8 頼家将軍の回復

 九月五日 北条名越邸に時政と息子の義時と政子が参集している。「頼家将軍が回復されただって・・・」息子の義時からその事を知らされて、苦り切ったように時政は声を絞り出した。「さようでございます。今朝方より体調が良好なようで、かゆを召し上がっているとの事です。誰かが将軍に告げたのでありましょう、比企一族の全滅と正室の若狭の局と子息の一幡君の亡くなられたのを知ったようで、私と近侍が行った時には弱った身体ながら時政、義時出てこい、と阿修羅の形相で大声を上げて、部屋の調度を蹴散らしておりました。我ら多数で、殿を縛り上げ、見張りをつけましたが、そのどなり声は鬼のようでありました。」答える義時は38才、戦で鍛えた精悍な身体と顔つきである。「私どもが行く前に、将軍は密かに和田義盛わだよしもりと新田忠常に北条征伐を命じたと言うことです。義盛が先ほど、その下知文げちぶみ(命令書)を、このような物を将軍から受け取りましたと尼台所(政子)に届けて寄こしました。新田からは何の音沙汰がないので、新田を良く見張るよう手配いたしました。・・・父上、この先はいかがいたしましょう?」

 時政はしばし無言だった。目はキョロキョロと部屋のあちこちを見ているかのように彷徨っている。

「ふむ、そうだな・・・ここまでやってしまった以上、将軍が治癒されたからと言って、このまま将軍を続けて頂く訳には行くまい。退位して頂き、将軍の弟君の千幡君に三代将軍になっていただくのが北条家にとって最良だ。頼家将軍に置かれては隠居なさって我らが古里の伊豆でのんびり過ごしていただこう。尼御台所どのこの方策でいかがでござるかな」

 政子は時政をじっと見つめていたが、口を開いた。

「お父様には、あれほど一幡を助けてくださいと、お願いしていたのに、一幡も、その母の若狭の局も戦乱の中で犠牲になってしまいました。今度は頼家の更迭ですか。頼家の日頃の所行を見れば更迭はしかたがないかも知れませんが、くれぐれも手荒に扱わないで大事に扱ってくださいね」

「解っておる、約束する。頼家殿を粗末にしたりはせぬ」


 九月七日 の刻(午後十時過ぎ) 鎌倉幕府第二代将軍源頼家は退位し、髪を落とし出家した。 

 


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