77 貞観政要
七月一日 実朝のただ一つの歌集である「金塊和歌集」に、次のように記載されている。
建暦元年七月、洪水天にはびこり、土民愁嘆せむ事を思いて、ひとり向かいたてまつり、いささか祈念して曰く。
時により 過ぐれば民の嘆きなり 八大龍王 雨やめたまえ
七月四日 実朝は貞観政要を学ぶ。この書は唐の賢帝と言われる二代皇帝太宗(在位627年~649年)と重臣の間で行われた政治問答を主な内容としている。唐の先代の王朝、隋の失政と破綻を良く分析した太宗の考えが明瞭に記載されている。
貞観は太宗が天子であった時の年号で政要は政治の要諦、重要な所という意味だ。この書は中国の周辺諸国で帝王学として学ばれた。日本には平安期に到来し、鎌倉時代になって尼御台所(政子)が漢文を和訳させたという。この書は難しい理論書ではなく、事実に即した明快で具体的な内容に満たされた名著で知られている。徳川家康は「吾妻鏡」とともに、この書も愛読書であったという。その内容の大略は次のようである。
一、創業と維持は、どちらが難しいか?それは維持である。
一、敵の忠臣であった者は能力のある者であるから重用すべきである。
一、諫めごとをいう家臣を大事にせよ。良く臣の言葉を聞くべきである。
一、媚びへつらう者を遠ざけよ。
一、権限を能力ある者に委譲すべし。
一、敵がいなくて安逸に流れると国が滅ぶ
一、人間関係の和ばかりを大事にすると良い仕事は行えない。
一、自分を全能だと思うな。
一、実需と虚需がある。生活が虚需に流されるといくらでも贅沢になってしまう。これは国が滅ぶもとだ
一、論談はすべきである。
一、縁故採用はするな。能力ある者を引き立てよ。
一、財務を大事にして税金を安くせねばならない。
一、むやみな大がかりな土木工事、建設工事、戦争をするべきではない
など、現在にも通用する内容を持っている。実際に太宗は、下臣の失礼な言葉に怒らず、その言葉を良く聞いたという。