54 内藤朝親、新古今和歌集を持って鎌倉に戻る
内藤朝親は鎌倉に到着すると、わが邸にもよらず旅装束のまま御所に駆けつけた。随分、荒々しい様に
実朝は驚いたが、直接来たと言うことが解り、実朝には嬉しかった。
「朝雅殿討伐で京都は大変な騒ぎでした。静かな京に騎馬が音高く駆け抜け武者達の大声が到るところでするものですから貴族を始め庶民達も固く戸を閉めて縮こまっておりました。何しろ六波羅探題(鎌倉幕府の朝廷監視役・警察の役)の屈強な武士が左右に分かれて戦うものですから、凄まじいの一言でした。この私も追討の一員としてかけずりまわっていたのです。ちょうど鎌倉殿に出来上がった新古今和歌集をお届けしようと旅支度していたところに追討の令が届いたので、出立が遅れてしまい、到着が今となってしまたのです」
「藤原定家殿や後鳥羽院殿は無事だったのですか」
「京都は不思議な所で、我々鎌倉の武士が駆けずりまわっているのに歌会なども開かれていて、われ関せずといった雰囲気なのです」
「なんだか、関東の武士達が滑稽ですね」
「京都の人々から見れば、我々は人殺し集団に見えるでしょうな」
「もう聞いているでしょうが、あなたが留守していた短い間にも、畠山一族が討たれ、叔父の時政が更迭される騒動がありました。私はいつになったら鎌倉は平安になるのだろうかと危惧しているのですよ。」
朝親はもっともだという風に相づちを打った。
「そうそう話が長くなってしまいましたが、これができあがった、新古今和歌集でございます」
朝親は手元に置いた華麗な文様の布をほどいた。中から桐の木箱が表れた。木箱のまま朝親は実朝にさしだした。実朝はドキドキするような気持ちで桐箱の蓋を開けてみた。純白の真新しい紙に 新古今和歌集 と墨痕も鮮やかに筆書きされている書が眼に入った。
「ああ、これが噂の新古今和歌集ですか、美しい筆使いですね、ああなんとうれしいのでしょうか、本当にありがとう」
実朝は朝親が退出した後、すぐに新古今和歌集を開いた。夕の食事もあわただしく口に入れ一睡もせずに読みふけった。