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19 実朝 兜始め

 南面の池を造作した庭に贅を尽くした金細工漆塗りの鞍を据えた白馬が引き出されてきた。庭に多い桜の木は赤々と紅葉して池にその姿を映している。椅子に座していた実朝はよろけそうになりながらも立ち上がり、屋内から前庭に向けて歩いて行く。時政は粗相のないように、目立たぬよう手を添えて新将軍をかばった。ここで転んだりしては屈強な武士である御家人の笑いものになる。その思いは二人に共通している。

 時政は廊下から庭に下りる階段から庭を歩き馬に乗るまで、そっと手を添えた。・・・先日の比企能員ひきよしかず暗殺の折、物陰から見てた時政の冷たい視線を知らぬ者には、時政は人柄の優しい好々爺としか見えなかった。

 実朝はうまく馬上の人となる。その姿は武者人形の可愛さである。ここで又、オウというどよめきと共に御家人らしい強烈な拍手が起こった。

 祝宴の後、陽もそろそろ暮れようという頃、広い馬場に御家人一同は移った。時政の五男、北条時房ほうじょうときふさがが奉行して(担当責任者となって)、将軍御弓始めが行われた。

 真っ赤に染まっていた鰯雲はたちまちその色を灰色に変じた。空が一刻、一刻、濃い藍色に染まり御所はたちまち暗闇に包まれようとするその時、臨時に造られた弓場を囲む広場に置かれた数多いかがり火が惜しげもなく着火された。

 実朝将軍の姿とそれを見守る御家人数百名がかがり火に照らし出されて、まるで昼間のようである。


 北条時房二十八才(頼家の好きだった蹴鞠けまりの仲間で親しかった。頼家側近でありながら今日の晴れ舞台の大役をこなすので、北条氏の頼家にたいするスパイ説がある)は姿美しい精悍な若武者である。

 その時房が美しい大声で百余名の御家人を堂々と見据えて「これより将軍家お弓始めが行われる。まずは鎌倉殿(実朝)が弓をとられる」とつげる。源氏にとって弓術は伝説的なお家芸である。実朝も幼い頃から玩具のように弓を扱ってきたから、腕は確かである。

 実朝は射所に立った。実朝の姿がかがり火で照らされる。弓を引き絞り、放たれた鏑矢かぶらや(音を立てる矢、戦闘の始めに射たり、神事に用いられる)は、ヒョーと高らかに音を立てて的を目指して飛んだ。見事的を射る。二番、三番も射られるがこれもみな的にあたった。その度ごとに後家人の喚声と拍手が盛大に起こった。三本射終わって、実朝は後ろに居並ぶ」御家人達を振り返り満面の笑顔で会釈する。

 続いて御家人から選ばれた射手が実朝に変わり二人ずつ射所に立った。それぞれが普通の矢を二十五本ずつ射る。射手は和田義盛、海野幸氏うんのゆきうじ榛谷重朝はんがやしげとも、望月重隆、愛甲季澄、市河行重、工藤行光、藤澤清親、小山朝光、和田胤長である。






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