12.レース
アロンは、川辺で光る石を見つけた。
濡れた朝日に照らされ、角度を変えるたび虹色が走る。
子犬はその石を舐めた。
冷たさを確かめるように。
親しみを示すように。
アロンは笑った。
「おまえの宝物か?」
石を拾い上げると、手のひらの上で光はさらに濃くなった。
まるで小さな鼓動があるみたいに。
アロンはそれをポケットに入れた。
理由は説明できない。ただ、入れるべきだと思った。
その直後、足元の苔が崩れ、アロンは滑った。
身体が横に倒れ、視界が急激に流れる。
子犬は飛びついた。
小さな牙でアロンの服を噛み、全体重で引く。
「やめろ、危ない――」
言い終える前に、アロンの身体は川へ落ちた。
流れは見た目より速い。引き込まれた腕は冷たく痺れた。
子犬も落ちた。
だが、離れなかった。
必死にアロンの腕にしがみつき、前脚で水面を叩く。
犬の泳ぎではない。ただの「生きる抵抗」
アロンは理解した。
これは助けられているのではない。
助け合っているのだ。
アロンも水を掻いた。
子犬を押し上げるために。
やがて二つの命は岸に流れ着いた。
泥まみれで、呼吸は荒い。だが確かに生きていた。
子犬は震えていた。
アロンはそれを抱き、タオルで包み込んだ。
顔を上げると、目的地が見えた。
川沿いの道の終わり。霞の向こうの小さな建物。
「……もうすぐだな」
言葉は静かだったが、今度は自分のためだけじゃなかった。
子犬は短く鳴いた。
返事のように。相棒の誓いのように。
ノーマは、今日も歩いていた。
昨日までと同じ川沿い。だが視線は違っていた。
トラブルは絶えなかった。
雨、浸水、食料不足、仲間内の亀裂。
しかしそれらはすべて積み重なり、彼の背骨になっていた。
「自然は敵じゃない。教材だ」
そう思った瞬間から、世界の見え方が変わった。
木の洞はシェルター、キノコは選択肢、罠は交渉手段。
経験の蓄積が、自信ではなく実感を生んでいた。
歩く速度は遅い。
だが歩幅は迷っていない。
ノーマの中で変わったのは「成功の条件」だった。
進んでいると思えること。
それが生きている証明。
マリアンは、最初に目的地へ着いた。
泥も雨も言い争いも、彼女の道にはほぼ現れなかった。
彼女は迷わず建物に入り、荷物を放り投げ、
「先に浴びてくるわ」
とだけ言って風呂へ直行した。




