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IQ100の天才  作者: 七星北斗


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11/13

11.日向

アロンの腕の中で、

子犬が急に身をよじらせた。

小さな身体が、不安定に暴れる。

「……どうしたの?」

声をかけても、子犬は落ち着かない。

アロンは立ち止まり、ゆっくりと地面に下ろした。

子犬は迷わず川辺へ向かう。

短い脚で、よろけながら。

そして水を舐め始めた。

夢中で。必死に。

「ああ……」

アロンはそこで初めて気づく。

喉が渇いていたのは、自分だけじゃなかった。

川の水は冷たい。澄んでいる。

流れは昨日よりも穏やかだ。

アロンもしゃがみ込み、手ですくって口に含む。

今度は吐き出さない。

子犬は水を飲み終えると、自然にアロンの横に来る。

もう、抱き上げる必要はなかった。

二つの足で歩き出す。

それぞれの速さで。

地面には雨の名残が残っている。

葉の先の滴。石に溜まった水。

小さな世界が無数に光っている。

アロンは立ち止まり、それを眺める。

空気が違う。

湿っているが、重くない。

冷たいが、澄んでいる。

「……雨のあと、だな」

言葉はあとからついてきただけだった。

川は流れている。

同じ場所を二度と通らない。

アロンと子犬は、その横を歩く。

急がず。遅れず。

同じ朝。

マリアンたちは歩いていた。

会話がある。笑い声がある。

誰かがぬかるみに足を取られる。転ぶ。

次の瞬間、別の誰かも転ぶ。

気づけば全員、泥だらけ。

一瞬の沈黙。

それから誰かが吹き出す。

「ひどい格好ね」

「最悪だ」

「でも……」

笑いが広がる。

汚れた服。濡れた靴。

それでも楽しかった。

マリアンはその光景を見て思う。

これが“一緒に歩く”ということか。

誰も最適解を探していない。

誰も評価されていない。

ただ前に進んでいる。

同じ朝。

ノーマは足を止める頻度が増えていた。

疲労が完全には抜けていない。

「……休む」

短く指示を出す。誰も反論しない。

全員、限界が近いことを理解している。

ノーマは罠を仕掛ける。

簡易的だが効率はいい。

しばらくして鳥がかかる。

無駄な動きはない。

命を食料へと変える。

火を起こし、分け合う。

誰かが言う。

「……助かるな」

ノーマは頷くだけだった。

彼は知っている。

これは余裕ではない。

遅れを取り戻すための必死な調整だ。三つの道。

三つの速度。

三つの“生き方”。

川は、すべてを見ている。

ただ、何も語らない。

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