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IQ100の天才  作者: 七星北斗


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10/13

10.摂る

夜の途中で、アロンは目を覚ました。

雨音は、もう弱くなっている。

空気は冷たい。喉が、ひどく乾いていた。

アロンは、手のひらを差し出す。

溜まった雨水を、そっと口に含む。

そのまま、飲み込まない。

一度、口の中で転がし、吐き出す。

舌と喉を、濡らすためだけの行為。

「……これでいい」

理由はない。本能に近い判断だった。

子犬は、まだ眠っている。

呼吸は浅いが、途切れてはいない。

やがて、空が白み始める。

雨は、止んでいた。

朝だ。

アロンは立ち上がる。

身体は重い。だが、動くことはできる。

子犬を胸に抱き、 歩き出した。

森の中。

湿った匂い。土と葉の匂い。

時折、赤い実が目に入る。

野生化した果物。

アメリカンチェリー。

アロンは、一粒摘む。

口には入れない。

指で割り、果肉だけを取り出し、子犬の鼻先へ。

子犬は、弱々しく舐める。

少しずつ、確かに。

「……よし」

アロンは、それで満足だった。

しばらく歩くと、音が変わる。

水の音。

川だ。

流れは穏やか。だが、確かに続いている。

上流も、下流も、 同じ方向に世界が伸びている。

アロンは立ち止まり、川を見つめる。

「……一直線だ」

誰に言うでもなく、そう呟いた。

川は、嘘をつかない。

逆らわなければ、必ずどこかへ連れて行く。

アロンは、川沿いを選んだ。

同じ朝。

ノーマは、目を覚ますとすぐに動いた。

身体は冷えているが、思考は冴えている。

空腹。

だが、昨日よりは軽い。

森を見渡し、地面を見る。

湿度、温度、 菌糸の痕跡。

「……あるな」

食用キノコ。

慎重に選別し、火で軽く炙る。

毒性の確認、反応なし。

食べる。

十分だ。

腹が満たされると、世界の見え方が変わる。

ノーマは、ポケットに手を入れる。

火打ち石。

確かにある。

雨は止んでいる。

空は明るい。

「……戻れる」

独り言。

遠回りする理由は、もうない。

ノーマは決断する。

引き返す。

そして、川沿いへ。

最短距離。

昨日は選べなかった道。

「今なら行ける」

それだけで、十分だった。

同じ朝。

列車が、唐突に止まった。

理由の説明は、最小限。

「ここから先は、徒歩で進め」

「目的地まで、約5キロ」

ヴィンとマリアンは、顔を見合わせる。

5キロ。

短くはないが、不可能でもない。

マリアンが言う。

「歩くわ」

ヴィンは、 頷く。

「そうだな」

列車を降りる。

地面は、まだ湿っている。

だが、空は晴れつつある。

三つの選択。

三つの朝。

川を信じる者。判断を修正する者。与えられた安全から降りる者。

誰も、間違ってはいない。

誰も、正解でもない。

だが、それぞれの道は、もう交わらない。

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