第7話 緊張してるんだよ
『アルス』という国は独特で、興国王が目指した後世に渡り国民が幸せになるための施策という政の中に、『信じる神は制限せず』というモノがある。
アルスでは国が興る前まで色々な神を信仰する者たちが集まった土地でもあった。その為に時折信仰する神を巡る対立が起こったわけだが、そこに国を興した興国王が宣下する。
『如何なるものにも神が宿りて、日々感謝し生きる事こそが我ら国に生きるモノの命である。各々が信じる神は帰る事は無いし変わる必要もない。信じる神を強制・矯正することは国の法に依って禁ずるものとする』
堅い言葉で仰られているが、簡単に説明すると、色々な神様がいてもいいよね? 何を信じるかは人それぞれだよね? だからそれを否定しないよ。そしてそれを強制的に変えろなんて言わないから安心してね!!
という事なのであるが、確かにアルスという国では、今もなおその教えというか教義が生きていて、国民の大半はなにを神と崇めても罰せられることはまずない。
そしてこれもまたこの国独特なのだが、『何も信じていない』という、所謂無宗教派の人達も多くいる。
それでも国で暮らしている人達では争いが起こる事は無い。宗教論争は確かに有るのだけど、それはその教義を信じている偉い人達だけが関与しているモノに限られる。
平民・庶民として暮らしている国民にとって、どれがいいかなんて優劣つける必要もないし、付けたとしても生活が変わるわけではないので、ほぼほぼ無関心なのである。
――こんな話をしたいわけじゃないんだけどな。
目の前で起こってることを見ていると、そんな感想しか生まれてこない。
俺はダニエラちゃんに誘導されて、知らずのうちにお屋敷前に着き、久しぶりに同期に会ったのだけど、そのお屋敷には既に『先客』が多数訪れていた。
「ケント……ちょっと面倒なときに来ましたわね……」
「と、いいますと?」
俺は屋敷の中へリラに先導されながら入っていくと、大勢の使用人さんや働くメイドさん達が立ち止まり頭を下げる光景を見ながら、やっぱりお嬢様なんだなと感心する。
「……まずはその言葉遣いを何とかしてくれないかしら?」
「え?」
先導していたリラが立ち止まって振り向きつつ、むすっとした表情をしながらそんな言葉をかけてくる。
「なんというか……同期なのですから、あの時と同じように接していいのよ」
「あ、いやでも……ここは侯爵家のお屋敷の中だし……」
「……いいんですぅ!! 私が良いって言っているんですから!! いいんですぅ!!」
「……変わらないね、リラ……」
リラが言うあの時とは、たぶん机を並べて共に勉強に明け暮れていた、国立学校時代の事を言っているんだろうという事が理解できた。
その時から上級貴族家のご息女という立場であるにもかかわらず、平民で庶民である俺に対してだけはいつも対等な立場で側にいてくれたのだ。
「……私は変わってないわよ? それはあなたもでしょ?」
「クスッ。まぁね……」
お互いに顔を見合わせながら笑いあう。
――少し前まで一緒にいる時間が多かったというのに、こうして離れた期間が有ってから会うと、なんというか立場の違いがあって当たり前なのに、リラはそんな事を気にした素振りもない。気にしているのは俺だけなのかもしれないな……。
『ねぇ? お姉さまもお兄ちゃんも先に行かないの?』
「あ!?」
「ん?」
向かい合いつつ笑いあう二人の周りには、いつの間にかもう一人の少女の姿が有って、俺達を見ながら不思議そうな顔をして伺っている。
「先に行かないのかって……」
「もしかしてダニエラかしら?」
「……うん」
「……そっか……」
リラがちょっとだけ寂しそうな表情をしたけど、その姿を見せないようにするためか、すぐに廊下の先へと向きを変える。
「……そうね。では行きましょう」
「行くのは良いけど……どこへ向かってるのかな?」
「先ほども言ったのだけど、今少しメンド――ううん!! 大切なお客様がいらしているので、ケントにはちょっとの間応接室で待っててもらう事になるわ」
「大切な人達が来ているなら、俺はまた出直してもいいけど……」
「……いいのよ。どうせあの人たちには何もできないのですから……」
先に歩き出したリラは俺に聞こえない小さな声で何かを呟いた。
そのままリラについて廊下を歩き、しばらくすると大きな扉の前へと着いた。その中でしばらく休んでいて欲しいと言われたので、リラに促されるまま扉の先へと入っていく。
「うわぁ……」
侯爵家の応接室には何度か入った事が有るけど、俺が入っていた事のある部屋は今リラに促されてはいっていた部屋よりもかなり質素な感じの部屋で、広さも今の部屋よりも半分ほどだったはず。
「どう? ここが本応接室よ」
「本応接室って?」
「簡単に言うと、お父様のお客様をお通ししてお相手する部屋ね」
「は? お父様って……」
――それは侯爵家ご当主様って事では?
俺はリラの方を見ながら背中に冷たい物が流れるのを感じた。
「ちょっと待っててね!!」
「あ、ちょっ!! リラ!!」
ニコッと俺に微笑むと、リラは部屋から廊下へと出てどこかへ行ってしまった。
『お兄ちゃん座ろ?』
「え? あ、うん……そうだね……」
呆然と立ち尽くす俺にダニエラちゃんが声を掛けて来て、促されるまま部屋に設えてある大きなソファーへと移動し、下座の端っこへと小さく座った。
「お茶ございます」
「え?」
座ると同時に俺の前へとお茶が静かに置かれ、そのままスッと離れていく人影を見る。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。しばらくお待ちいただくよう、旦那様から言伝を頂きましたので、ケント様にお伝えに参りました。
「は、はい分かりました」
「何かございましたら、テーブルにございますベルをお鳴らしいただけますと、我々が対応させていただきます」
そこまで流れがとてもスムーズで、扉の前で一礼するとお茶を置いてくれた人――若いメイドさんだった――が扉から廊下へと出て行った。
「ふぅ~……」
『どうしたの?』
「緊張してるんだよ……」
『気にしなくてもいいのに』
「そういうわけにはいかないんだよ」
ふ~んと興味なさそうな返事を返すダニエラちゃん。そのまま俺の隣に座って足をぶらぶらとし始める。
『ね? 誰か来るまでお話ししててもいい?』
「いいよ。俺もその方が気が落ち着くしね」
『やったぁ!!』
両手を上げて喜ぶダニエラちゃん。その姿にほっこりしながら、誰かが部屋に入って来るまで俺達二人は楽しく会話をして時間を過ごした。
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