第6話 再会
「まずは泊まる所を確保しないとな」
乗ってきた乗合馬車を降りて、町の中をぐるっと見渡してから独り言ちる。
小さなころから何度も来ている街の中で、なじみともいえる宿の場所へと歩いて向かう。
ちょうど国立学校が夏季休暇中という事もあるし、侯爵領は周辺領地と一線を画すほどに発展しているという事もあって、観光客や商売をする為に訪れる人達が多い。そんな中で宿を取るのも一苦労なわけだが、俺が利用している宿は冒険者と言われる人達も立ち寄る所謂安宿なため、時期によっては部屋を取ることはできない。
なるべく早く宿を取っておかないと最悪は野宿することになってしまうので、少しだけ歩く速度を上げて目的の宿へと向かう。
「ん?」
その途中で裏路地と言われる、少し暗がりの中に漂うモノを見つけてしまうが、いつもの事だからと特に気にしないで進んでいく。
『今、私の事を見ましたよね?』
「ッ!?」
宿の場所へと急いでいる俺の前に突然現れた少女。
『私の事、見えてますよね?』
「えっと……」
『良かった!! 私の事がちゃんと見える人が居た!!』
俺の目の前で良かったと言いながらくるくると回る少女。
「……君は?」
『あ、失礼しました!! 私はダニエラと申します』
「そっか……ダニエラちゃんか。うぅ~ん……ごめんね。俺ちょっと急いでいるから話しは後にしてくれないかな?」
『そうなのですか……。ところで何をお急ぎなのですか?』
「宿を取らないとね、ほら泊る所が無いと野宿になっちゃうからさ」
『なるほど……。ではウチにおいでくださいませんか? そこでゆっくりお話ししましょう』
にっこりと俺に微笑みつつ話す少女。
しかし少女の言う通りに、少女の家へと伺うことはできない。
「それはできないよ」
『どうしてでしょうか?』
首をコテンと傾げて不思議そうな顔をする少女は、とてもかわいらしかった。
「きみ……。いや、ダニエラちゃんだっけ? 君のお家の人と俺は知り合いじゃないのだから、いきなり訪ねてもお家にいれてさえもらえないと思うよ?」
『え? あ、そ、そうですね!! 私としたことがうっかりしてましたわ!!』
うぅ~んと考えるダニエラちゃん。
その少女ことダニエラちゃんは、見る限りで言うと身なり的には一般庶民的な物とは異なり、上等なワンピースを身に纏っており、髪も手入れが行き届いているようなさらさらと流れる茶色のストレート。そして整った色白な小顔で年相応な表情を見せてくれている。
――どこかの商屋さんの娘さんかな?
コロコロと変わるダニエラちゃんの表情を見ながら考える。
『とりあえず、お兄ちゃん私に付いて来て!!』
「え?」
考えが纏まったのか俺の方へニコッと微笑むと、ダニエラちゃんは俺を誘導するようにスッと動き始めた。
「あ、ちょっと!! 俺はまだ行くなんて……」
『来てくれないの?』
俺の方へと振り向くと、悲しそうな表情を見せる。すると少しだけ周囲の温度が下がったような感じがした。
「……ふぅ~。わかったよ。それじゃぁ連れて行ってくれるかい?」
『うん!!』
ニコッと再び微笑むと、ダニエラちゃんはスキップするように俺を先導し始めた。その後をため息をつきながらついていく。
――はぁ~……。どうしようかな……今日は野宿かもしれないなぁ……。
泊まる場所はもうあきらめるしかないなと思いつつ、ダニエラちゃんの後を追っていくのだった。
『ここです!!』
「え? ここ……?」
連れてこられた場所。
それは俺も良く知っている大きな屋敷の門の前。しかもいきなり俺という庶民が門の前に来たものだから、門の衛士たちが怪訝な表情で俺の事を見ていた。
――うわぁ……ここかぁ……。という事はダニエラちゃんって……。
「ねぇダニエラちゃん」
『なんです?』
門前の衛士に聞こえない様に、ダニエラちゃんに小さな声で質問する。
「もしかしてダニエラちゃんってデュラン様と――」
『お父様をご存じなのですか!?』
――あぁやっぱり……。
大きく見開く瞳で俺の方をジッと見つめるダニエラちゃん。
「ご存じというか……」
どういっていいのか分からず言いよどむ。
「用事が無いのなら立ち去りなさい。ここは君の様な庶民が近寄っていい場所ではない」
俺が門の前で独り言をブツブツと言っているのを訝しく見ていた衛士の一人が近づいて来て、俺の前に立ちふさがる様にしながら声を掛けて来た。
『まぁ!! この人なんて事を言うのかしら!! お父様に言わなければならないわね!!』
プンプンと怒りながら衛士の周りをぐるぐると回り始めるダニエラちゃん。
「す、すみません。あ、いやでも用事がない訳ではなにのです」
「なんだと!? しかしその身なりの者が侯爵家に何用があると?」
少し侮蔑のこもった眼で俺の全身を見渡しながら低い声で答える衛士。
「いえ、そのですね実は侯爵様に呼ばれまして……」
「嘘を吐くのも大概にしないと、君を捕えなければならなくなるぞ?」
ニヤッと笑いながら衛士は俺を威圧する。
――はぁ……めんどくさいなぁ……。
こういう人が居る事は知ってはいたが、目の前で起こっている事に対処するのが面倒に感じてしまう。
「いや、ですから本当に――」
「どうしたのです? 何かあったのですか?」
衛士と話を再開しようとした時、門の向こうから女性の声が聞こえて来た。
「は!! これはお嬢様。 この者が不敬にも侯爵様に用事があると、呼ばれたと申すものですから。すぐに排除しますのでお待ちください」
「おい!! もうお前をこのままにしておくことはできん!! さっさと――」
「お待ちなさい!!」
「え?」
俺の腕を掴んでその場から離れようとする衛士を、女性が止める。
「まさか……ケント……なの?」
「……リラ様。お久しぶりでございます……」
「貴様!! お嬢様のお名前を!!」
「お待ちなさいと言っています!! 下がりなさい!!」
衛士がまだ何か言い放つ前に、目の前の女性――リラ――が下がらせる。茶色の髪を腰まで伸ばし、小さな顔に大きな栗色の瞳で衛士をキッと睨む。
「まさか今日来るなんて……」
「ははは……。本当は前触れを出すために一度宿を取ろうと思ったんだけどね」
「そう……でも真っすぐここに?」
「うん。まぁ……途中でダニエラ様に出会って連れてこられちゃって……」
俺が申しわけないと頭を下げるのを、大きな瞳を更に大きく見開いて驚くリラ。
「そう……ダニエラが……」
俺とリラの間に沈黙が訪れる。
リラは俺に向かって静かに微笑んだままだった。
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