第4話 最後の言葉をあなたに
「へ?」
俺の顔を見ながらキョトンとする。
「準備はいいですか? マイルズさん」
こくりと頷くマイルズさん。
「セリーヌさん。子供の頃にした約束を守れなくてごめんとマイルズさんが言っています」
「約束……?」
「えぇ。子供の頃、一緒に大きくなったら結婚して大きな店を持ちたいと話していたことありますよね?」
「まぁ……確かにそんな事も有ったねぇ……」
昔を懐かしむように、少しだけ笑顔になるセリーヌさん。
「指輪贈ることが出来なくてごめんな……と」
「……え?」
「結婚したら大きな宝石の付いた指輪を贈ると約束したのに、約束を果たす前に居なくなってごめんな、と言っています」
「まさか……そんな……」
大きく目を見開いて驚くセリーヌさん。そんなセリーヌさんを驚きつつ見つめるマック。
「マック」
「え? お、オレ?」
今度はセリーヌさんの隣に座るマックへ視線を移す。自分は何も言われないだろうと思っていたのか、マックはすごく驚いた。
「マックには教えるはずだった料理のレシピを最後まで教えられなくてすまないと言ってるよ。ただ、そのレシピが書かれた物が、マイルズさんがいつも使っていた食器棚の奥に有るから、大きくなったらそれを見ながら頑張れって言ってる」
「ほ、本当に!? 本当にお父さんが!?」
「あぁ……間違いなくマイルズさんがそう言ってるよ」
マックもまた驚きの声を上げるが、すぐにハッとなったのか店の奥へと走って行った。たぶんマイルズさんの言った食器棚の奥を見にいったのだろう。
そんなマックの姿を見つめていたマイルズさんは、俺の方へ顔を向ける。
『先生……』
「何ですか?」
『セリーヌに伝えてくれないか……』
未だに放心しているセリーヌさん。
「セリーヌさん」
「……え? あ、う、うん。なんだい?」
「今からマイルズさんの最後の言葉を伝えます」
「え? 最後……」
「最後です。たぶんそれがマイルズさんの心残りだったのでしょう」
「…………」
何も言わず、ただ静かにセリーヌさんは頷いた。
『セリーヌ。先に……君を残してしまう形になってすまない。本当はずっと一緒にいたいと思っていたんだ。ただ俺の体が限界だったんだよ……。変だなと思ったのはもう数年前だ。突然目の前が真っ暗になってひどい頭痛に襲われた。最初は疲れがたまったからか、単なる貰い病かと思って放っておいたんだ。実際にその時は直ぐに良くなった。ただそのうちに何度も同じような事が体に起き始めた。何度も何度も……。そうして自分の身体を騙しながら働いて来たけど、セリーヌも言っていただろ? 最近若い時みたいに痩せてかっこよくなったって。ダイエット成功したんだねってな』
そこまでいっぺんに話をすると、マイルズさんは少しだけその時を思い出したのかフッと笑った。
『でもな、ダイエットなんてしてない。いや食べても食べても体の肉が落ちていきやがる。そう気が付いた時に俺は悟ったんだ。あぁ……俺は永くなんだなってな。それからはマックにもセリーヌにも気が付かれない様に頑張った。頑張ったんだけどダメだったぜ。すまない』
「マイルズ……」
マイルズさんが話す言葉をそのままセリーヌさんに伝えると、セリーヌさんは涙を流し始め黙って俺から紡がれる言葉を聞いてくれていた。
『すまない。約束も守れず、お前も……マックももう一緒に守ってやることが出来なくなっちまった。俺たちの城……セリーヌとマックに任せてもいいか?』
「もちろん……マイルズもちろんよ!!」
顔をぐしゃぐしゃにしながら涙を流すセリーヌさん。そこへ奥へと言っていたマックが手に抱えきれないほどの皮紙をもってきた。
『マック』
「え?」
マイルズさんがマックへ声を掛けると、マックは驚きつつもきょろきょろと辺りを見回した。
『マックセリーヌを頼んだぞ。そしてこの城をしっかりと守ってくれ……』
「お父さん!?」
マックの頭をポンと一撫でする仕草をすると、マイルズさんはその場から消えてしまった。何かを感じだマックもまたその場で泣き出してしまった。
それからはマイルズさんの姿も声も俺には聞こえなくなり、二人が落ち着くのを椅子に腰かけて待つ。
「せんせい……」
「……大丈夫ですか?」
「あぁ……すまないね」
ようやく落ち着きを取り戻したセリーヌさんが、涙をグッと両手で拭きながら、俺に声を掛けてくる。
「先生。あの人は……マイルズは逝ってしまったのかい?」
「……そうだと思います。心残りはお二人の事だったのでしょう。急に亡くなってしまってそれを伝えることが出来ないでいた。でもそこに偶然俺という存在がいるという事に気が付いたんでしょう。だから俺に何かを伝えてもらおうとしていた」
「そうかい……まぁあの人らしいけどね」
「俺的には迷惑でしたけどね。まとわりつかれてましたから」
「プッ……ふふふ……がははははは!!」
「あははは……」
セリーヌさんが豪快に笑いだしたのにつられて、俺も笑い出した。
「あはは……はぁ。ところで先生」
「え?」
ひとしきり笑いあうと急にセリーヌさんが真剣な眼差しを俺に向ける。
「先生……あんた何者だい?」
「…………」
堪えられず黙ってしまう俺。
「まぁ先生が何者だっていいさ……。こうしてマイルズの最後の言葉を届けてくれた恩人に変わりはないしね」
「セリーヌさん……」
「安心しな!! 何かあっても私は先生の味方だからね!!」
「オレも先生の味方だよ!!」
「二人共……ありがとう」
この日を境に、俺はご飯を食べに良く食堂へ通うようになり、マックはお店の空いた時間に家に勉強しに戻ってくる時間が増えた。
食堂へ行くことが出来ないときは、マックが家まで食事を運んでくれることもあって、人との繋がりを改めて感じることが出来た。
――良し!! そろそろ行動するか!!
身近に起こっていた物事を解決して時間が生まれたので、ようやく取り掛かることが出来る侯爵家からされた相談事。その解決へ向けて動き出すのであった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!




