第2話 訪問者の正体
「……拝見します」
「はい」
パキっと音を立てて蝋封を解き、封書の中を確認する。
時間をかけて読み、一息入れてから封書をテーブルの上へと置いた。自分にずっと向かっている視線と、手紙の内容とにちょっと緊張していた俺は、一つ呼吸を整えてから、スッと視線を向ける。
「内容は分かりました。しかしどうして私に?」
「内容を読んで頂いたのでお話しいたします。少し前からなのですが――」
男性は俺の顔をしっかりと見つめつつ、ゆっくりと話し始めた。
「――と、いうわけでケント様にどうかご助力していただけないかとご相談に伺ったのです。なにぶん前触れもなく不躾に訪れてしまった事、どうぞご容赦ください」
男性は離し終わると同時に立ちあがり、頭を下げた。それに寸分たがわぬタイミングで女性もまた同じように頭を下げる。
「あ、いえ!! 私になど頭を下げることはありません!! どうぞ頭を上げてください!!」
「しかし……」
「しっかりと話はお伺いしましたし……。その……質問しても?」
「どうぞ。何でも仰ってください」
「どうして私にこのお話を?」
最初に気になった事をそのまま聞いてみる。
「あぁその件ですか……。実はこの件を相談に伺ったところ、丁度その場にいらっしゃった方が、こういう類はケント様が信頼できるとおっしゃられたのですよ」
「え? だ、誰がですか? まさかご当主様ご本人がですか?」
「いえいえ。ご息女のリラ・ジオルグ嬢でございます」
「あぁ……。そうですか彼女ですか……」
なるほどと、疑問の答えに納得した。
リラ・ジオルグ嬢とは、侯爵家であるジオルグ家のご長女であり、俺の学校時代の同期でもある。
元々の身分が違いすぎる為、接点が出来るはずもない存在であると思っていたのだけど、毎回のように行われる学校の考査により、順位が上下だったという縁からリラ嬢から話しかけられるようになった。そして、とある一件を経て以降はリラ嬢が何かあるごとに一緒に行動するように。
当時から俺の事を理解してくれている第一人者であると同時に、俺にとっては唯一信頼できる友達といった存在なのだ。
そんな彼女が俺にと持ちかけて来たこの話。
「……分かりました。彼女が『俺になら』という事でしたら、微力ではありますがお力添えさせていただきたいと思います」
「「おぉ!!」」
俺の返事に抱き合いつつ喜ぶ二人。
「それで……その……」
「はい?」
お二人を目の前にしていて、少し気になったことがあるので、正直に聞いてみる。
「失礼ですけど、お二人と侯爵家様とのご関係は……」
「あぁ!! これは失礼した!!」
失敗したとばかりに男性は手を打つ。
「私はデュラン・ゲオルグ。そして横にいるのが妻のマリネ・ジオルグだ」
「へ? えぇ~っと……ということは?」
「うむ。リラ・ジオルグの兄であり、ジオルグ侯爵家の次期当主という事だな」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
まさかの人物が目の前にいた。
侯爵家という雲の上の存在であり、その次期当主様ご本人である。
侯爵家から直接手渡される封書を持っているという事で、かなりの高位権力者か、もしくはそれに準ずるような位置に立たれている方だとは予想はできていた。
予想はできていても、まさか身内の方とは思いもしない。
「言ったはずですよ? 家の中で相談したと。その時にリラ嬢もそこに居たと」
ニヤッとしながら俺に話す男性。いやデュラン・ゲオルグ様。
「あ、は、はい!! 申し訳ありませんでした!!」
「あ、いやいや。そうかしこまらないでください」
「そういうわけには……。侯爵様ですし、それに確か兄上様は3歳歳上とリラ……あ失礼しました。リラ嬢からも聞いておりますし……」
対面する方々は侯爵家という高位貴族の方々であるので、いくら同窓生であり、同級生といってもいつものように呼称しまったことを焦る。なにしろこちらは庶民であって貴族様方のお身内を呼び捨てになんてすることは不敬ととらえられてもおかしくはない。
「先ほども申し上げた通り、気にしないでください。だまし討ちのようなことをした非礼はこちら側にありますし、それに……あのリラが認めている人なのですから、私たちもケント様を頼ろうと思ったのですから」
「あの……様はつけないで頂きたく……」
「ならば私も妻も名前で呼んでください。敬語もいりませんよ?」
今度は夫婦そろって俺にニコッと笑う。
「え? いえそれは……」
「おかしいですね? 先ほど妹の事はリラと――」
「で、ではデュラン様とマリネ様で!! 敬語を外すのは……」
何となく突っ込まれそうな気がしたので、こちらから先手を打つ。
「分かりました。今はそれで良しとしましょう!!」
「あ、ありがとうございます……」
「では、ご相談の件……われらの娘の事をよろしくお願いいたします」
二人が並んで一緒に頭を下げる。
「はい……。出来る限り頑張る所存です……。リラに怒られたくないので……」
最後はぼそっとこぼした。
心の中での言葉にしたつもりだったが、お二人共にニヤッと笑った。
――どうやら聞こえちゃったみたいだな……。
大きなため息が漏れた。
しばらくは今後の事について相談しながら、結構な時間を過ごし、陽が沈み始める前に馬車に乗って帰って行った。
離れ行く馬車を見つめつつ俺は気合を入れた。
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