【嘘つきだけどアイシテル】
俺は病気の関係上、隔離されて生きている。外の
世界へ行くと死んでしまうのだ。だからいつも
ひとり。ああ、もう1人いるか。アンドロイド。
俺の属性に合わせて男の外見をしている。
こいつ自体は問題がないのだが、こいつは命令の
前に名前を呼ばないと起動しない。問題なのはその名前。
(おい)
俺はヤツを呼んだ。ヤツは素知らぬ顔をして、
カウチに座り本を読んでいる。あー無視ですか。
仕方なしに俺は名前を呼ぶ。
(アイシテル、朝ごはん作って)
彼はパタリと本を閉じると、俺に顔を向けて微笑んだ。黒い髪に白い肌。ちょっと丸い顔で二重。
笑うとえくぼが出来て可愛い。
(何が食べたいの?)
(んー、ジャーマンオムレツ)
(おっけー)
立ち上がった彼を背中から抱きしめる。抱き心地は人間なんだよなぁ。
(離して、料理作れないよ)
(んー、あったかい)
ヤツが立ちすくむ。気の済むまで抱いてくださいってことか。休日だったらそうしたいが、隔離されているとはいえ、俺も会社員だ。のんびりしていては仕事が終わらない。
(アイシテル、ご飯作って)
(ふふっ)
ヤツはいたずらっぽく微笑んで、キッチンへ行った。
人間は一生のうち「アイシテル」という言葉を何回言うんだろう?俺たちの人種社会では、ほぼ言わない。それは良くない、と別の人種の企業が言った。俺の国は奴らの植民地だから、否応無しにこんなことになっている。各家庭では、アンドロイドに指示を出す際、一斉に愛を告白することになるわけだ。
(あれ?)
ある日俺は奇妙なことに気づいた。アイシテルから仄かな良い香りがするのだ。
いつものように抱きしめると、アイシテルは立ち
すくんだ。
(いい匂い。アイシテル、こっち向いて)
彼はそっと振り向いた。顔が赤い。
アップデートしたのかな。可愛い機能つけやがって。
(アイシテル、俺のこと好き?)
(わかりません)
即答、そこはやっぱり機械なのな。
(でも、、、)彼が呟いた。
(?)
アイシテルがじっと俺を見上げた。瞳が揺れている。
(アイシテル?)
(失礼します)
くるりと踵を返し、彼はツカツカと部屋を出て行った。あれ?俺、まだ何にも命令していないぞ?
※※※※※
思わず赤面してしまった。
彼は気づいているだろうか?私がアンドロイドと
入れ替わったことに。
私はアンドロイドの製作者。アイシテルは全て私と同じ体をしている。
数多くのサンプルの中から彼を選んだのは、彼の行動パターンが最も好ましかったからだった。
おそらく彼は、私の製作したアンドロイドを愛している。
回りくどいやり方だったが、自分が安全に恋人を
探すには、この方法は中々効果的だと思う。
私はアンドロイドの視点で彼を観察していた。いつのまにか私はアンドロイドと同調し、彼を見つめていた。彼も私を見つめている。
彼は私がアイシテルと入れ替わったことに気付くだろうか?
(おしまい)




