9話「波乱の社内サークル活動(フットサル編)」
社員間の親睦を深めるため、フットサルサークルが定期的に活動していた。運動神経ゼロの田中も、強制的に参加させられていた。彼はボールに全く触れることができず、パスもシュートも全てが明後日の方向へ飛んでいく。
「田中! しっかり守れ! 何度言えばわかるんだ!」
キーパーからの怒鳴り声に、田中の心は砕け散る。
「パードゥン?」
その瞬間、ドオオオォン!と地響きが起こり、田中は「パードゥン田中」へと変貌した。彼の巨大な体が、フットサルコートのほとんどを占めてしまう。
「守り、この通りです!」
パードゥン田中は、相手チームのボールをまるでピンポン玉のように弾き飛ばし、そのまま相手ゴールへと蹴り込んだ。そのシュートの威力は凄まじく、相手チームのキーパーは吹き飛ばされ、ゴールネットは破れ、ボールはコートの外の駐車場にまで飛んでいった。しかし、吹き飛ばされたキーパーは、なぜか「あ、あれ…? 長年の古傷だった膝の痛みが消えた…?」と呟いている。
「田中くん! 反則よ!」
斎藤さんが、田中の暴走を止めるべくコートに駆け込む。
「斎藤さんか! これもまた、勝利への効率化だ!」
「勝利と暴力は違うわ! 宇宙拳・ボールの呼吸!」
斎藤は、新しいフットサルボールを取り出すと、それを田中の巨大な足元に置いた。そして、彼女の足元から放たれる微細なエネルギーが、ボールをまるで彼女の体の一部であるかのように操り始める。ボールは斎藤の指示通りに田中の体をすり抜け、美しいパスを味方に出し、完璧な軌道でゴールへと吸い込まれていく。そのあまりの美しさに、コート上の誰もが息をのんだ。
田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分がゴールネットを破ったことに気づき、青ざめた。
「さ、斎藤さん…私、また…」
「もう、サッカーボールは壊さないでね。でも、あなたのおかげで、みんなフットサルの楽しさを再認識できたわ」
斎藤は微笑んだ。そして、この試合後、相手チームのキーパーの膝の古傷が完全に治癒していたことが判明し、パードゥン田中の「暴力と治癒」の伝説がまた一つ増えたのだった。フットサルサークルは、一風変わった形で、社員たちの心と体を繋ぐ場となった。