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80話「自分達にしかできないこと」

結婚生活が落ち着いてきた田中と斎藤さんは、変わらない日常業務をこなしていた。しかし、斎藤さんの心には、ある大きな問いが芽生えていた。


(私の『宇宙拳』と田中くんの『地球拳』。この二つの力が合わされば、もっと人のためにできることがあるのではないかしら?)


斎藤さんは、田中が持つ「地球拳」が、地球の力を借りて能力の上昇や地形の変化を起こす力であること、そして自身の一族が受け継ぐ「宇宙拳」が、その地球拳を正しい方向に導くために生み出されたことを、母親から聞かされていた。二人の力が切っても切れない関係にあると知って以来、彼女は自分たちの使命について深く考えるようになっていたのだ。


ある日の昼休み、斎藤さんは田中にその思いを打ち明けた。


「田中くん。私たちの力って、もっと大きなことができるんじゃないかと思うの。」


田中はきょとんとした顔で斎藤さんを見つめる。


「え?大きなこと、ですか?」


「ええ。例えば、田中くんの力で何かを生み出し、私がそれを良い方向に導く。そうすれば、世界中の困っている人を助けられるかもしれない。」


斎藤さんの言葉に、田中は真剣な表情になった。


「僕の力で、誰かを助ける…ですか?」


二人は、自分たちの力をどう活かすべきか、様々な可能性を話し合った。


「部署内で困っている人を助けるのはどうだろう?」


田中が提案する。斎藤さんは首を横に振った。


「それも素晴らしいけれど、それでは私たちの力の『枠』を超えられない。部長の引き出しにあるコーヒー豆を探すのが精一杯では、地球規模の困りごとには対応できないわ。」


「では、慈善団体を立ち上げて、寄付を募りながら活動するのは?」


斎藤さんは、それも違うと答える。


「それだと、私たちの力が直接的に人々に届かない。もっと、私たちの手で、直接的に人々を救える方法はないかしら。」


田中は、斎藤さんの熱い眼差しを見て、彼女が本気で自分たちの力で世界を変えようとしていることを感じた。彼もまた、斎藤さんと共に、誰かの役に立ちたいと強く願った。


(僕の力で、斎藤さんと一緒に、誰かを幸せにできるなら…!)


その強い思いが、田中の心臓にずっしりと響き始めた。


「パードゥン…?」


その瞬間、ドォォォォォン!と微かな地響きがオフィスを揺らし、田中はパードゥン田中へと変貌した。彼の巨大な体がオフィスを突き破り、ビルを突き抜けて青い空にそびえ立つ。


オフィス中の社員が悲鳴を上げ、混乱する中、パードゥン田中は、二人が話し合っていた企画書に巨大な指をそっと触れた!


「枠? とんでもない! 最高の可能性を、今ここに!」


パードゥン田中が企画書に触れると、企画書はなぜか巨大な宇宙船の設計図へと変貌し、オフィス全体が宇宙船のコックピットへと姿を変えた。しかも、そのコックピットからは、なぜか地球上のあらゆる場所で困っている人々の悲鳴が、リアルタイムで聞こえてくる。


しかし、その可能性は過剰だった。宇宙船の設計図はあまりに複雑で、誰も理解できない。そして、聞こえてくる悲鳴は、あまりに多すぎて、聞いている者の精神を消耗させるほどだった。


「田中くん! 何やってるの!」


異変に気づいた斎藤さんが駆けつけた。彼女はアクロバティックに、宇宙船の計器を避け、悲鳴の合間を縫い、パードゥン田中の巨大な指先へと飛び乗った。


「薫さんか! これもまた、可能性の創造だ! 究極の未来を創造するのだ!」


「可能性はいいけど、みんなを宇宙船に乗せたり、悲鳴を聞かせちゃダメでしょ! 宇宙拳・因果律修正!」


斎藤さんはパードゥン田中の巨大な指の上で身を翻し、指先に向かって流れるような拳法の動きでエネルギーを集中させ、オフィスを元の状態に戻し、悲鳴を止めた。


田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ斎藤さんの顔をきょとんと見つめていた。オフィスは元の状態に戻っている。


「ごめんなさい、薫さん…僕、また…」


「もう、いいの。でも、田中くんの気持ちは、ちゃんと伝わってきたわ。私たちにしかできないことが、きっとある。」


斎藤さんは、そう言って優しく微笑んだ。この一件で、二人は会社という枠に囚われず、自分たちの力で人々を助ける道を選ぶことを決意した。


---


その頃、橘は、ジャングルの奥地にある村で、相変わらず「聖なる守護者」として崇められていた。彼は、今朝、村人たちから「聖なるお告げ」を告げられたばかりだ。


「聖なる守護者よ。神々(田中と斎藤さん)は、新たな旅に出られたようだ。我々も、神々の後を追う必要があるだろう。」


橘は、村人たちが宇宙船の模型を作り始めるのを見て、絶望に顔を歪ませた。


「うわあああああああ!やめろおおおおおおお!宇宙船なんて、作れないんだあああああああ!」


彼の絶望の叫びは、今日もまた、遠い日本の空に届くことはなかった。橘の受難は、今日もまた、新たな局面を迎えるのだった。

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