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75話「オムライスの磁力」

新婚旅行から戻り、田中と千尋の新しい生活が始まった。二人の新居は、どこにでもあるごく普通のマンションの一室だ。しかし、彼らにとっては、それ自体が幸せの象徴だった。田中は、家事にも積極的に協力し、千尋のために料理に挑戦するなど、慣れないながらも奮闘する毎日を送っていた。


ある日の午後、田中が慣れない手つきで千尋のためにオムライスを作っていた。ケチャップでハートを描こうとするが、ケチャップの出が悪く、ぐちゃぐちゃな形になってしまう。


(うぅ…もっとうまく、千尋さんのために、もっとうまく作りたいのに…!)


田中は、自分の不器用さに自己嫌悪に陥る。そのもどかしさが、彼の心臓にずっしりと響き始めた。


「パードゥン…?」


その瞬間、ドォォォォォン!と微かな地響きが新居を揺らし、田中はパードゥン田中へと変貌した。彼の巨大な体が部屋を突き破り、マンション全体を突き抜けて青い空にそびえ立つ。


近所の住民が悲鳴を上げ、混乱する中、パードゥン田中は、ぐちゃぐちゃになったオムライスに巨大な指をそっと触れた!


「オムライス? とんでもない! 最高の愛を、今ここに!」


パードゥン田中がオムライスに触れると、オムライスはなぜか二人の「愛の形」を具現化する「愛のオムライス」へと変貌した。オムライスは、食べると二人の愛が深まるという不思議な力を持つ。さらに、彼の力の余波で、周囲の家具が、なぜか自己修復能力を持つ「最強の家具」へと変貌し、欠けても割れても瞬時に元の姿に戻るようになった。


しかし、その愛の形は過剰だった。オムライスを食べた田中と千尋は、二人の愛が深まりすぎたせいか、なぜか体が磁石のようにくっつき、何をしても離れられなくなってしまった。二人はリビングでくっついたまま、互いに顔を真っ赤にしてうずくまってしまう。


「田中くん! 何やってるの!」


異変に気づいた千尋が駆けつけた。彼女はアクロバティックに、最強の家具が勝手に修復していくのを避け、パードゥン田中の巨大な指先へと飛び乗った。


「千尋か! これもまた、愛の創造だ! 究極の家庭を創造するのだ!」


「愛はいいけど、体がくっついて離れられなくなっちゃダメでしょ! 宇宙拳・因果律修正!」


千尋はパードゥン田中の巨大な指の上で身を翻し、指先に向かって流れるような拳法の動きでエネルギーを集中させ、オムライスの能力を止め、家具を元の状態に戻した。


田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ千尋の顔をきょとんと見つめていた。新居は元の状態に戻っている。


「ごめんなさい、千尋さん…僕、また…」


「もう、いいの。でも、田中くんが一生懸命作ってくれた気持ちは、ちゃんと伝わってきたから。」


千尋は、そう言って優しく微笑んだ。


---


その頃、橘は、ジャングルの奥地にある村で、今や立派な「聖なる守護者」として、日々を過ごしていた。彼の使命は、村の神殿に祀られたGPS付きのスーツケースが発する「お告げ」を、村人たちに伝えることだ。


そんなある日、スーツケースから、新しいメッセージが流れてきた。それは、田中と千尋の新婚生活を記録した、渚からのレポートだった。


「橘さん、お久しぶりです!田中さんと斎藤さんの新婚生活を記録してみました!やっぱり、二人の能力は、愛が深まるほどに、相乗効果を生み出すようです!今後の研究が楽しみですね!」


橘は、そのメッセージを見て絶望に顔を歪ませた。自分の悲惨な旅路は、田中の幸せな新婚生活のために利用されていたのだ。


「うわあああああああ!渚ぁぁぁぁぁぁぁ!俺は、俺は一体何のためにこんなところにぃぃぃぃぃ!」


彼の絶望の叫びは、遠い日本の空に届くことはなかった。橘の地球一周の旅は、新たな受難と共に、まだまだ続いていくのだった。

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