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68話「トイレの中の準決勝」

腕だけが異常に肥大したままの橘の横で、田中はなんとか予選を突破し、快進撃を続けていた。彼の対戦相手は、いずれも並々ならぬ実力者ばかりだったが、田中の能力が予期せぬ形で発動するおかげで、なぜか相手はことごとく自滅し、田中は無傷で勝ち進んでいった。斎藤さんは試合中も田中の能力を制御するため、セコンドとして常にリングサイドで目を光らせていた。


そして、いよいよ準決勝。田中の対戦相手は、このトーナメント最強の呼び声高い、”破壊神”の異名を持つプロレスラー、ボブ・ザ・ジャイアントだ。その圧倒的なオーラに、田中はすっかり萎縮してしまった。


(うわぁ、強そうだ…。こんな人に勝てるわけないよ…)


恐怖と絶望が、田中の心臓にずっしりと響き始めた。


「パードゥン…?」


その瞬間、ドォォォォォン!と微かな地響きが会場を揺らし、田中はパードゥン田中へと変貌した。彼の巨大な体が屋根を突き破り、スタジアム全体を突き抜けて青い空にそびえ立つ。


会場中の観客が悲鳴を上げ、混乱する中、パードゥン田中は、ボブ・ザ・ジャイアントが持っていたペットボトルの水に巨大な指をそっと触れた!


「緊張? とんでもない! 最高のコンディションを、今ここに!」


パードゥン田中がペットボトルの水に触れると、水はなぜか「最高のコンディション」を引き出す特効薬へと過剰に変化した。ボブ・ザ・ジャイアントは喉の渇きを潤そうと、その水を一口飲む。その瞬間、彼の体は一瞬にして最高の状態へと引き上げられた。筋肉はさらに隆起し、オーラも増した。


しかし、そのコンディションは過剰だった。ボブ・ザ・ジャイアントは最高のコンディションを手に入れたものの、あまりにコンディションが良くなりすぎた反動か、急に強烈な腹痛に襲われ、リングを降りてトイレへと駆け込んでしまった。さらに、彼の力の余波で、会場中の選手たち(決勝の相手を除く)が、なぜか皆一斉に強烈な腹痛に襲われ、次々とトイレへと向かっていった。控室からも、同じく強烈な腹痛に苦しむ選手のうめき声が聞こえてくる。


「田中くん! 何やってるの!」


異変に気づいた斎藤さんが駆けつけた。彼女はアクロバティックに、トイレに駆け込む選手たちを避け、パードゥン田中の巨大な指先へと飛び乗った。


「斎藤さんか! これもまた、コンディションの調整だ! 究極のコンディションを創造するのだ!」


「コンディションを調整するのはいいけど、みんなを腹痛にさせちゃダメでしょ! 宇宙拳・体調修正!」


斎藤さんはパードゥン田中の巨大な指の上で身を翻し、指先に向かって流れるような拳法の動きでエネルギーを集中させ、強烈な腹痛を沈静化させた。


田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ斎藤さんの顔をきょとんと見つめていた。リングは元の状態に戻っている。


「さ、斎藤さん…私、また…」


「まったく、ハラハラさせるんだから。でも、おかげで決勝に進めるわね。みんなのコンディションも良くなったみたいだし。」


斎藤さんは呆れたように微笑んだ。田中は自分がまた騒ぎを起こしたことにしょんぼりするが、斎藤さんが自分のことを見てくれていることに、どこか安堵感を覚える。


この一連の騒動中、橘は、ゴウダに無理やりリングサイドに座らされ、田中のセコンドの隣で観戦させられていた。彼は運悪く、腹痛を訴えてトイレに駆け込んだボブ・ザ・ジャイアントに、うっかり水をかけてしまい、ボブにトイレへと担ぎ込まれそうになって悲鳴を上げていた。斎藤さんが能力を修正した後も、彼は「う、うわあああああ!殺される…殺される…!」と震えながら、顔を真っ青にしてその場にうずくまっていた。


一方、渚は、目を輝かせながら全ての出来事を手帳に記録していた。ボブのコンディションが急上昇し、全員がトイレに駆け込む光景。これら全てが、彼女にとっては最高の研究材料だ。手帳には「田中の能力、体調を制御?」「斎藤さん、宇宙拳の真髄は体調修正か?」といったメモに加え、最後に斎藤さんと田中が顔を見合わせ、呆れたように笑い合う姿を、そっとスケッチしていた。彼らの間に流れる、誰も理解できない絆の正体を突き止めるべく、彼女の探求心は燃え盛るばかりだった。

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