7話「汗と涙の大掃除」
年末の大掃除は、社員にとって憂鬱なイベントの一つだった。特に、重いキャビネットや古い書類の山を移動させるのは、骨の折れる作業だ。田中は、キャビネットを動かそうとして踏ん張るが、びくともしない。
「田中、お前は本当に非力だな! 女子社員の方がまだ役に立つぞ!」
上司の容赦ない言葉に、田中の顔がみるみるうちに歪む。
「パードゥン?」
その瞬間、ドォン!と地響きのような音と共に、田中は「パードゥン田中」へと変貌した。
「非力? この通り、完璧な配置転換をお見せしましょう!」
パードゥン田中は、目の前の巨大なキャビネットを軽々と持ち上げ、まるで羽毛のようにフワリと移動させた。彼はそのまま、オフィス中の重い家具や備品を次々と持ち上げ、あっという間にレイアウトを変更していく。そのあまりのスピードとパワーに、社員たちはただ呆然と立ち尽くすばかりだった。しかし、彼の行動はエスカレートし、遂には「ここが狭い! 宇宙の開放感を!」と叫びながら、オフィスの壁を素手でぶち抜き始めた。
「田中くん! やめなさい! 会社が壊れるわよ!」
斎藤さんが、田中の暴走を止めるべく駆け寄る。
「斎藤さんか! これもまた、業務の効率化と快適な空間の創造だ!」
「創造と破壊は違うわ! 宇宙拳・空間の安定!」
斎藤は、田中の拳が壁にめり込む寸前で、その動きをぴたりと止めた。彼女の手から放たれる微細なエネルギーが、田中の破壊衝動を吸収し、逆にぶち抜かれた壁の穴を、まるで特殊な塗料を塗るかのように瞬く間に修復していく。社員たちは、その信じられない光景に目を丸くした。
田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が壁に穴を開けようとしていたことに気づき、青ざめた。
「さ、斎藤さん…私、また…?」
「まったく、壁に穴を開けようとするなんて。でも、おかげでオフィスの模様替えはあっという間に終わったし、なんだか空気もスッキリしたわね」
斎藤は微笑んだ。そして、大掃除が終わった後、田中がぶち抜きかけた壁から、長年放置されていた換気扇の詰まりが解消されており、そのおかげで部署全体の湿気が劇的に改善されていたことが判明した。大掃除は、まさかの快適なオフィス環境をもたらす結果となったのだった。