57話「真夏の氷点下」
うだるような真夏の昼下がり。気温はすでに36度を超え、アスファルトからは陽炎が立ち上っていた。田中はランチのために外に出たものの、あまりの暑さに食欲も失せ、フラフラと歩いていた。目的の定食屋に着く前に、もう汗だくで意識が朦朧としてくる。
(やばい…!このままじゃ、体が溶けちゃう…!何か、何か涼しいものが…!)
暑さで思考能力も低下し、ただひたすら涼しさを求める田中の心臓は、猛暑に苛まれ激しく波打ち始めた。
「パードゥン…?」
その瞬間、ドォォォォォン!と地響きが起こり、田中はパードゥン田中へと変貌した。巨大な体がビル群の間にそびえ立ち、周囲の通行人は悲鳴を上げ、街は一瞬にして大混乱に陥った。パードゥン田中は、灼熱のアスファルトを巨大な足で軽く踏みしめた!
「暑さ? とんでもない! 最高のクールダウンを、今ここに!」
パードゥン田中がアスファルトを踏みしめると、地面から冷気があふれ出し、街全体が瞬時に冷やされた!気温はたちまち20度まで下がり、ひんやりとした空気が街中を包み込む。さらに、彼の力の余波で、街中の自動販売機は全て、飲み物がキンキンに冷えたかき氷に変わり、なぜかそのかき氷を食べると、一時的に腹筋が割れるという効果まで現れた。街全体が、まるで未来の「超快適避暑地」のように機能的で涼しい空間へと変貌したのだ。
しかし、地面からあふれ出した冷気は、あまりにも強力すぎて、道行く人々が寒さに震え上がり、夏の服装のまま凍え始めるという被害が出た。自動販売機化したかき氷は、なぜか味が「ひたすら辛いワサビ味」や「激しくしょっぱい塩味」になっており、一口食べた人が次々に悶絶していた。
「田中くん! 何やってるの!」
異常な冷気と悲鳴に気づいた斎藤さんが、ランチの途中で街に駆けつけた。彼女はアクロバティックに凍り始めた噴水を飛び越え、パードゥン田中の巨大な足元へと飛び降りた。
「斎藤さんか! これもまた、環境の創造だ! さあ、涼しくなろうではないか!」
「人を凍らせたり、不味いかき氷を出したらダメでしょ! 宇宙拳・温度の均衡!」
斎藤さんはパードゥン田中の足元に力強く着地。その場から一歩も動かず両腕を大きく広げ、大気に優しく語りかけるかのように見えたその動きから強烈な衝撃波が放たれた。その力で、街の気温は快適な28度に戻り、凍えそうになっていた人々は安堵のため息をついた。かき氷は通常の美味しいフレーバーに戻り、腹筋が割れる効果だけが残った。
田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ斎藤さんの顔をきょとんと見つめていた。目の前には、ちょうど良い気温の街並みが広がっている。
「さ、斎藤さん…私、また…」
「まったく、ハラハラさせるんだから。でも、おかげでずいぶん涼しくなったわね。それに…」
斎藤さんは呆れたように微笑んだ。田中は顔に流れる汗が止まっていることに気づいた。この一件後、なぜか街中の人々は、真夏でもエアコンの設定温度を上げても平気になったという噂が広まった。また、自動販売機のかき氷は、なぜか夏の間だけ「食べると少しだけ腹筋が割れる」という密かな都市伝説となり、筋トレ愛好家の間で大人気になったのだった。




