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53話「空飛ぶグラブと消えたボール」

日曜日。草野球の助っ人で、田中はライトを守っていた。空振りと凡打の連続で、チームの足を引っ張ってばかり。そんな時、相手チームの強打者が打ち上げたボールが、田中の頭上を軽々と越えていく。


「田中!何やってんだお前は!この役立たずが!」


監督の怒鳴り声が飛んできた。自分の不甲斐なさと焦りで、田中の心臓は激しく波打ち始めた。


「パードゥン…?」


その瞬間、ドォォォォォン!と地響きが起こり、田中は「パードゥン田中」へと変貌した。巨大な体がフェンスを突き破り、空にそびえ立つ。大混乱の中、パードゥン田中は飛んでいくボールを巨大な目で見つめ、そのまま自分のグラブを空に投げつけた!


「野球? とんでもない! 最高の守備を、今ここに!」


投げつけられた巨大なグラブは、空を飛び、ボールを見事キャッチ!そして、そのまま田中の頭の上にスポン!と戻ってきた。完璧だ。しかし、この力の余波で、グラウンドの土はどんな雨にも負けない最強のクッション性を持ち、ファールボールは全て、観客席の売店のフライドポテトの容器の中に吸い込まれるようになった。


だが、空飛ぶグラブはピョンピョン跳ね回り始め、相手チーム選手はスパイクが引っかかり転倒。フライドポテトに吸い込まれたファールボールは、野球ボールそっくりの丸い形に変形した。


「田中くん! 何やってるの!」


異変に気づいた斎藤さんが野球場に駆けつけた。


「斎藤さんか! これもまた、常識の超越だ! 野球の未来を創造するのだ!」


「野球の未来を創造するのはいいけど、試合の邪魔をしちゃダメでしょ! 宇宙拳・均衡の修正コスモス・バランスリペア!」


斎藤さんはパードゥン田中の足元に力強く着地。その場から一歩も動かず両腕を大きく広げ、虚空に壁を作るかのように見えたその動きから強烈な衝撃波が放たれた。その力で、跳ね回っていたグラブは田中の足元に静かに落ち、スパイクは洗いたてのようにピカピカになり、ポテトはボールの形をしたままだった。


田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ斎藤さんの顔をきょとんと見つめていた。頭にはボールの形をしたポテトが収まったグラブが乗っている。


「さ、斎藤さん…私、また…」


「まったく、ハラハラさせるんだから。でも、試合がめちゃくちゃにならなくてよかったわね。」


斎藤さんは呆れたように微笑んだ。田中は周囲を見渡す。試合は再開され、何事もなかったかのように進んでいる。しかし、観客席の一部からは、「さっきの丸いポテト、食感も面白いぞ!」という声が聞こえてきた。この一件後、なぜか田中の草野球チームは、どんなに強い打球も必ずグラブに戻ってくるという都市伝説が流れ、対戦相手から恐れられるようになった。そして、フライドポテトの売店では、期間限定で「野球ボール型ポテト」が販売され、意外な人気を博したのだった。

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