5話「波乱の新入社員歓迎会」
春爛漫のある日、真新しいスーツに身を包んだ新入社員たちが集まる歓迎会が開かれた。田中もその一人で、緊張しながら自己紹介の順番を待っていた。彼の番が来て、マイクを握りしめるが、声が上ずり、言葉がどもり始めた。
「こ、こ、こんにちは…わ、わたくし、た、たなかと申しま…す…」
会場からは、ちらほらと失笑が漏れる。上司である課長の顔が、みるみるうちに赤くなる。
「田中! しっかりしろ! 新入社員がそれでどうするんだ!」
その声が、田中の細い糸をプツリと切った。
「パードゥン?」
彼の体が、膨大なエネルギーを吸収するかのようにみるみるうちに巨大化していく。スーツの生地が悲鳴を上げ、パン!と音を立てて弾け飛んだ。目の前で酒を飲んでいた部長のグラスが、田中の急激な体積変化によって倒れ、酒が盛大にこぼれる。
「私が、田中です。この通り、完璧な自己紹介を披露しましょう!」
パードゥン田中は、堂々たる声で自己紹介を始めた。彼の言葉は淀みなく、会社の歴史から未来の展望まで、驚くほど流暢に語り出す。そのプレゼンテーション能力の高さに、会場は静まり返る。しかし、同時に彼の周囲では、自己紹介に熱中するあまり、無意識にテーブルを殴りつけていた拳によって、料理の皿が粉々に砕け散っていた。
「田中くん! やめなさい!」
そこで立ち上がったのは、同期の斎藤さんだった。彼女は冷静に、そして優雅に田中の元へ歩み寄る。
「斎藤さんか。私の完璧なスピーチを邪魔する気か?」
「完璧かもしれないけど、周りが迷惑してるわ! 宇宙拳・皿回し!」
斎藤は、まるでマジシャンのように田中の周りを舞いながら、彼の破壊的な拳の動きを巧みに誘導する。彼女の指先が触れると、砕けたはずの皿の破片が宙に舞い上がり、まるで時間が逆戻りするかのように元の皿の形に戻っていく。そして、その皿が斎藤の指の上でクルクルと回り出した。会場の誰もが、その不思議な光景に目を奪われた。
田中の巨体が、ゆっくりと元のサイズに戻っていく。彼は自分が何をしたのか分からず、ただ呆然と皿を回す斎藤を見つめていた。
「もう、まったく。自己紹介はもっと簡潔でいいのよ」
斎藤は微笑みながら、最後に皿をピタリと止める。その瞬間、田中に殴られて皿の破片を浴びていた部長が、ふと呟いた。
「あれ? 長年悩まされていた二日酔いが…なぜかスッキリしているぞ…」
どうやら、パードゥン田中の拳の衝撃と、斎藤さんの宇宙拳が巻き起こした宇宙のエネルギーが、部長の体内で何らかの化学反応を起こし、二日酔いを治癒したようだった。新入社員歓迎会は、思わぬ形で伝説的な幕開けとなった。