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42話「伝えたいかたち」

風邪がすっかり治り、田中はすっかり元気になっていた。あの時の斎藤さんの優しさが、何よりも効いたと彼は思っている。お見舞いのお礼をしたいとずっと思っていた田中は、何を贈れば喜んでもらえるか、頭を悩ませていた。斎藤さんが可愛いものが好きだという話を、以前ちらりと耳にしたことがあったのを思い出し、会社帰りにデパートのぬいぐるみ売り場に立ち寄った。


しかし、ぬいぐるみの種類は想像以上に多く、どれを選べばいいか全く分からない。可愛らしい動物たち、キャラクターもの、ふわふわしたもの、つるつるしたもの…。田中の心臓は、大量のぬいぐるみを前に、不安に波打ち始めた。


(やばい…どれがいいんだ…? 斎藤さんの好みが分からない…! 変なものを贈って、がっかりさせたらどうしよう…!)


彼の心臓は、まるでぬいぐるみたちの目が一斉に自分を見つめているかのように激しく脈打ち始めた。


「パードゥン…?」


その瞬間、ドォォォォン!と地響きが起こり、田中は「パードゥン田中」へと変貌した。彼の巨大な体が、デパートの天井を突き破りそうにそびえ立ち、周囲のぬいぐるみたちがミニチュアのように見える。周囲の買い物客たちは悲鳴を上げ、デパートは一瞬にして大混乱に陥った。


「プレゼント? とんでもない! 最高の贈り物を、今ここに!」


パードゥン田中は、ぬいぐるみ売り場全体に巨大な指をそっと触れた。彼の体から放出される膨大なエネルギーが、売り場全体に広がり始めた。全てのぬいぐるみが瞬時に斎藤さんの好みに合わせて最適化され、彼女が最も喜ぶであろう「とっておきの一体」が、光り輝きながら田中の目の前に現れた。それは、どこか間抜けで愛嬌のある表情をした、緑色のカエルのぬいぐるみだった。さらに、彼の力の余波で、ぬいぐるみの素材は最高の触り心地になり、なぜか抱きしめると心が安らぐような不思議な効果を持つようになった。売り場全体が、まるで未来の「パーソナルギフトショップ」のように機能的で温かい空間へと変貌したのだ。


「田中くん! 何やってるの!」


斎藤さんの声が響いた。彼女は、仕事帰りにたまたま立ち寄ったデパートで、友人へのプレゼントを探していたのだ。まさか、こんな騒ぎに巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。


「斎藤さんか! これもまた、感謝の気持ちだ! 贈答の未来を創造するのだ!」


「未来を創造するのはいいけど、デパートを壊しちゃダメでしょ! 宇宙拳・感情の調整コスモス・エモーション!」


斎藤さんは、パードゥン田中の巨大な足元に立ち、両手を広げた。彼女の体から放たれる穏やかな光が、売り場全体に広がる田中の過剰なエネルギーを包み込み、ぬいぐるみの過度な効果を、あくまで「心地よい安らぎ」を与える程度に優しく制御する。斎藤さんの好みに最適化されたカエルのぬいぐるみはそのまま残っていた。


田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ斎藤さんの顔をきょとんと見つめていた。彼の足元には、先ほど光り輝いていたカエルのぬいぐるみがちょこんと座っていた。


「さ、斎藤さん…私、また…」


「まったく、ハラハラさせるんだから。でも、そのぬいぐるみ…私への?」


斎藤さんは、田中の足元にあるカエルのぬいぐるみに気づき、それを手に取った。どこか間抜けで、でも憎めない表情をしたカエルをじっと見つめ、そして、ふっと笑みをこぼした。


「ふふ、ありがとう、田中くん。なんだか、田中くんらしいというか…」


田中は、レジに向かい、カエルのぬいぐるみの代金をきちんと支払った。斎藤さんは、クスッと笑いながら、そのカエルのぬいぐるみを優しく抱きしめた。その笑顔は、田中の心に温かい光を灯した。この一件後、なぜかデパートのぬいぐるみ売り場では、カエルのぬいぐるみが密かなブームとなり、売り上げが急増した。そして、斎藤さんのデスクには、いつもそのカエルのぬいぐるみがちょこんと置かれるようになったのだった。風邪のお見舞いのお礼は、まさかの「ぬいぐるみブームと小さな幸せ」という、驚きの成果をもたらしたのだった。

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