35話「終わらない会議の悪夢」
月曜日の朝一番。田中は、とあるプロジェクトの定例会議に出席していた。参加者は多く、議題は山積。予定では1時間の会議が、すでに2時間を超え、終わる気配は全くない。田中は、次から次へと出てくる追加資料や専門用語に頭が痛くなり始めていた。隣に座っていた斎藤さんは、冷静に議事録を取っている。
「ええ、その件については、もう少し議論を深めるべきかと…」
部長の言葉に、再び会議室に重い空気が流れる。田中は、時計と睨めっこしながら、早く自分のデスクに戻って仕事をしたいと切に願っていた。しかし、膨大な未読メールと、終わりの見えない会議の状況に、田中の心臓は不安に波打ち始めた。
(やばい…このままじゃ、今日一日会議で終わっちゃう…! 僕の仕事が…!)
彼の心臓は、まるで会議室のプロジェクターが熱暴走するかのうように激しく脈打ち始めた。
「パードゥン…?」
その瞬間、ドォォォォン!と地響きが起こり、田中は「パードゥン田中」へと変貌した。彼の巨大な体が、会議室の天井を突き破りそうにそびえ立ち、室内にあったホワイトボードや資料が宙に舞う。周囲の参加者たちは悲鳴を上げ、会議室は一瞬にして大混乱に陥った。
「議論? とんでもない! 最高の結論を、今ここに!」
パードゥン田中は、議事録が書かれたホワイトボードに巨大な指をそっと触れた。彼の体から放出される膨大なエネルギーが、会議室全体に広がり始めた。議論されていた全ての議題は瞬時に最適な解決策が導き出され、複雑な問題は一瞬で整理され、会議の結論が明瞭に表示された。さらに、彼の力の余波で、会議室のテーブルは社員一人ひとりの発言を自動で要約するディスプレイに変わり、なぜか会議参加者の集中力が劇的に向上した。会議室全体が、まるで未来の「意思決定支援センター」のように機能的で効率的な空間へと変貌したのだ。
「田中くん! 何やってるの!」
斎藤さんが、田中の暴走を止めるべく会議室に駆け込む。
「斎藤さんか! これもまた、業務の効率化だ! 会議の未来を創造するのだ!」
「未来を創造するのはいいけど、人の考える機会を奪っちゃダメでしょ! 宇宙拳・熟考の促し(コスモス・デリバレーション)!」
斎藤さんは、パードゥン田中の巨大な足元に立ち、両手を広げた。彼女の体から放たれる穏やかな光が、会議室全体に広がる田中の過剰なエネルギーを包み込み、自動で導き出された結論をあくまで「参考案」に戻すよう、優しく制御する。要約ディスプレイや集中力向上の効果はそのまま残ったが、結論の強制表示機能は調整された。
田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ斎藤さんの顔をきょとんと見つめていた。
「さ、斎藤さん…私、また…」
「まったく、ハラハラさせるんだから。でも、おかげで会議が劇的にスムーズになったわね。それに…」
斎藤さんは微笑んだ。そして、この一件後、なぜか社内の会議の回数が減り、一つ一つの会議の質が劇的に向上したことが判明した。さらに、会議室の観葉植物が、なぜか発言内容に反応して色を変えるようになったのだった。会議の悪夢は、まさかの「生産性向上とオフィスの彩り」という、驚きの成果をもたらしたのだった。




