4話「熱狂の運動会」
秋晴れの空の下、会社の運動会が開催された。普段運動とは無縁の田中は、借り物競走に出場することになった。「『隣の部署の美人な斎藤さん』を借りてくること」というお題に、田中は顔を真っ赤にして斎藤さんを探しに行ったが、斎藤さんはすでに別の競技に参加していた。焦りと恥ずかしさから、田中はとうとう限界を迎える。
「パードゥン?」
ドドーン!と効果音が聞こえそうな音と共に、田中は「パードゥン田中」に変身。その巨体でグラウンドを駆け抜け、借り物競争のお題など無視して、そのまま綱引きの競技に参加していた社長チームの綱を、一人で引っ張り始めた。
「うおおおおお! 田中が一人で引っ張ってるぞ!」
「相手チームが引きずられていくー!」
パードゥン田中は、まるで紙切れのように相手チーム全員を軽々と引きずり倒し、社長チームを勝利に導いた。しかし、その勢いは止まらない。彼はそのままリレーの最終走者の前に立ちふさがり、アンカーのバトンを奪い取ると、地面に地割れを作りながら爆走し始めた。
「速い! 速すぎる!」
その速度は、もはや超音速。田中の背後には、まるで竜巻のような砂煙が舞い上がっていた。しかし、田中が走り去った後には、なぜか地面に埋まっていた長年の忘れ物や、誰かが落とした小銭がキラキラと光っているのだった。
「田中くん! 何やってるのよ!」
斎藤さんが、田中の後を追うように走り出した。彼女は驚くべきスピードで田中に追いつくと、宇宙拳の構えを取る。
「宇宙拳・光の軌跡!」
斎藤は田中の巨体の周りを、まるで光の輪のように高速で駆け巡る。彼女の動きは優雅でありながらも、その軌跡から放たれる微細なエネルギーが、田中の暴走を徐々に鎮めていく。そして、田中の目の前に回り込むと、彼女は一瞬にして止まり、そっと田中の額に触れた。
「田中くん。今は、運動会の時間よ」
その瞬間、田中の体が元の細身へと戻った。彼は自分がバトンを握りしめていることに気づき、きょとんとした顔で斎藤を見つめた。
「さ、斎藤さん…?」
「ふふっ。さ、アンカーはあなたじゃないわ。戻って、ちゃんと応援してあげましょう?」
斎藤は優しく微笑み、田中の手からバトンを受け取ると、本来のアンカー走者にそっと手渡した。運動会は田中の乱入によって一時中断したが、誰も彼を責める者はいなかった。むしろ、彼の暴走のおかげで、普段は接点のない部署同士の距離が縮まったような、不思議な連帯感が生まれていた。そして、田中に踏まれた芝生の下からは、会社の創立記念品である懐中時計が発見され、長年の謎が解明されるというおまけつきだった。