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エピソードゼロ 1話「ある夏の出会い」

蒸し暑い夏の午後。小学校の裏庭で、一人の少年がうずくまっていた。田中と名乗るその少年は、虫取り網を握りしめ、目にいっぱいの涙を浮かべていた。セミを捕まえようとして、うっかり足を滑らせ、大切にしていた網の柄を折ってしまったのだ。


「うわああああ…僕、またダメだ…っ」


彼は人一倍臆病で、些細なことでも深く傷つく子供だった。普段から、ちょっとした失敗でもすぐに落ち込み、体が震える癖があった。その日も、折れた網を見るたびに、彼の心臓は激しく波打った。


その時、「どうしたの?」と優しい声が聞こえた。振り向くと、そこに立っていたのは、同じくらいの背丈の少女だった。透き通るような瞳を持つ彼女は、斎藤薫と名乗った。


「あ、網が…折れちゃった…」


田中は嗚咽混じりに答えた。斎藤は壊れた網を見ると、そっと田中の傍らに座った。


「大丈夫だよ。壊れても、元に戻す力があるから」


斎藤はそう言うと、小さな両手を壊れた網の柄にかざした。彼女の掌から、微かな光が放たれる。次の瞬間、田中の目の前で信じられないことが起こった。ヒビが入っていた網の柄が、まるで時間が巻き戻るかのようにゆっくりと繋がり、元通りになっていく。


「え…?」


田中は目をこすった。網は新品のように元に戻っていた。斎藤はにっこり笑う。


「私のおばあちゃんが教えてくれたの。『宇宙拳』っていうの。宇宙の力を借りて、物の形を整えたり、壊れたものを直したりできるんだよ」


斎藤は、生まれつき体が弱く、病気がちだった。そんな彼女を支えたのは、祖母が語ってくれた「宇宙の調和」の思想だった。「すべての存在は宇宙のエネルギーと繋がっており、その調和が崩れると不調が生じる。宇宙の力を借りれば、どんな困難も乗り越えられる」と。斎藤は、体が弱い自分でも強くなれる唯一の道として、幼い頃から宇宙拳を必死に修行してきたのだ。


「すごい…君は…魔法使いなの?」


田中は目を輝かせた。斎藤はくすくす笑う。


「魔法じゃないよ。でも、田中くんにも、きっと何か特別な力があると思うんだ。だって、網が治る時、田中くんの体がちょっとだけ、キラキラしてたから」


斎藤の言葉に、田中は首を傾げた。その時は、それが何を意味するのか、彼には理解できなかった。しかし、この出会いが、彼らの運命を大きく変えることになる。

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