3話「予測不能な社員旅行」
社員旅行の目的地は、風光明媚な温泉地だった。夕食後の宴会場では、カラオケ大会で大いに盛り上がっていた。普段は目立たない田中も、上司に勧められるままマイクを握り、演歌を歌い始めた。しかし、緊張のあまり声は震え、音程は外れまくり、会場は静まり返ってしまう。
「おいおい田中、もっと気合入れろ! こんなんじゃ宴会が盛り上がらねぇだろうが!」
課長の容赦ない野次が飛ぶ。田中の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
「パードゥン?」
その瞬間、田中は再び巨体へと変貌した。
「気合、この通りです!」
パードゥン田中は、持っていたマイクを握りつぶす勢いで熱唱し始めた。その歌声は、もはや人間のそれではない。地響きのような低音と、窓ガラスを揺るがすような高音が入り混じり、音響設備は悲鳴を上げた。そのあまりの音量に、宴会場のスピーカーが次々と爆発し、電飾がショートする。社員たちは耳を塞ぎ、机の下に隠れる者もいた。
「すごい歌声だ! しかし、スピーカーが!」
そこに、斎藤が飛び込んできた。
「田中くん! 歌うのは良いけど、物を壊すのはやめなさい!」
「斎藤さんか! 我が歌声に宇宙の真理を乗せているのだ! これもまた、進化だ!」
パードゥン田中は、さらに声を張り上げる。その歌声は、もはやソニックウェーブと化し、部屋中の障子を破り、襖を吹き飛ばした。しかし、彼の歌声に直接晒された社員たちは、なぜか皆、顔色が良くなっていることに気づいた。
「あれ…? 俺の長年の扁桃腺炎が、なんかスッキリしたような…」
「私も! 肩こりが治った気がする!」
どうやら、パードゥン田中の歌声には、細胞を活性化させる効果があったようだ。斎藤は、そんな奇跡を横目に冷静に対処する。
「宇宙拳・音の調和!」
斎藤は両手を広げ、田中の破壊的な歌声に共鳴するように、自らも美しいハーモニーを奏で始めた。それは、まるで宇宙の星々が奏でるような、穏やかで心地よい音色だった。田中の歌声の暴走が、斎藤のハーモニーによって徐々に制御されていく。そして、二つの声が混じり合い、やがては一つの荘厳な音の波となって、宴会場を優しく包み込んだ。
田中の体が元のサイズに戻り、彼はマイクの残骸を握りしめていた。宴会場は半壊状態だったが、社員たちの顔にはどこか満足げな表情が浮かんでいた。
「斎藤さん…、助かりました…」
田中がバツが悪そうに呟くと、斎藤はニコリと微笑んだ。
「まったく、騒がしいんだから。でも、みんな元気になったみたいでよかったわね」
社員旅行は、予期せぬトラブルに見舞われながらも、ある意味「健康」な思い出を残し、幕を閉じた。