23話「資料室の光」
蒸し暑い夏の午後。大量の古い資料が山積みにされた資料室で、田中は一人、汗をかきながら目的の書類を探していた。普段から整理整頓が苦手な彼は、どこに何があるのか全く分からず、途方に暮れていた。焦れば焦るほど、彼の動きはぎこちなくなり、遂には積み上がった資料の山を崩してしまった。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちる資料の山に、田中の心臓は激しく波打った。「僕って、本当に何をやってもダメだな…」そんな自己嫌悪の感情が彼の内側で渦巻き始めた。
「パードゥン…?」
その瞬間、ドォン!と地響きが起こり、田中は「パードゥン田中」へと変貌した。資料室の天井に頭がぶつかりそうになるほどの巨体で、彼は散らばった資料を瞬時に整理し始めた。彼の目からは緑色の光が放たれ、資料一枚一枚の情報をスキャンしていく。そして、光速で資料を分類し、完璧に棚に収めていく。しかし、その過程で、古い棚の一部が彼の力でひび割れ、壁には小さな穴が空いた。
「田中くん! 何してるのよ!」
そこに飛び込んできたのは、資料を探しに来た斎藤さんだった。彼女は、田中の放つ異様なエネルギーを感じ取り、駆けつけたのだ。
「斎藤さんか! 散乱した情報を、完璧に整理しているのだ! これもまた、業務の効率化だ!」
「効率化と破壊は違うでしょ! 宇宙拳・整理の波動!」
斎藤は、田中の巨大な手にそっと触れた。彼女の掌から放たれる柔らかな光が、田中の暴走で発生していた過剰なエネルギーを穏やかに鎮めていく。すると、田中の手によってひび割れた棚や壁の穴が、まるで魔法にかかったかのように修復されていった。そして、斎藤の「整理の波動」によって、資料室の空気が澄み渡り、長年の埃っぽさが消え去った。
田中の体が元のサイズに戻る。彼は自分が資料室で何をしたのか覚えておらず、ただ呆然と斎藤を見つめていた。
「さ、斎藤さん…私、また…」
「まったく、ハラハラさせるんだから。でも、おかげで資料室は完璧に整理できたし、空気もすごく綺麗になったわね」
斎藤は微笑んだ。その笑顔は、田中の心に、夏の資料室に差し込む一筋の光のように感じられた。彼は、斎藤がいつも自分を助けてくれることに、今までとは違う、温かい感情を抱き始めていた。彼女の優しさ、そして彼女が放つ不思議な光に、彼の胸は小さく高鳴った。




