17話「熱烈な社内表彰式」
年に一度の社内表彰式は、優秀な社員が功績を称えられる晴れの舞台だ。しかし、普段から目立たない田中には全く縁がなく、今年も蚊帳の外だった。そんな彼に、会場設営の手伝いを命じる声がかかる。
「田中、お前は本当に使えないな! こんな簡単な飾り付けもできないのか!」
上司の苛立ちの声が響き渡る。田中は、風船を膨らませるにも悪戦苦闘し、リボンを結ぶのもままならない。
「パードゥン?」
その瞬間、ズドォォォン!と大きな音と共に、田中は「パードゥン田中」へと変貌した。彼の巨体が、会場の天井に届くほどに膨れ上がる。
「使えない? とんでもない! 最高の表彰式を、今ここに!」
パードゥン田中は、巨大な手で一瞬にして会場を完璧に飾り付けた。彼の指先が触れるだけで、無数の風船が瞬時に膨らみ、リボンが複雑で美しい形に結ばれていく。彼は巨大なスクリーンを設置し、表彰される社員の功績を称える感動的な映像を一瞬で作成し、上映し始めた。そのあまりの演出力に、会場にいた社員たちは皆、感動の涙を流していた。
「すごい…! 映画のワンシーンみたいだ…!」
「感動して涙が止まらない…!」
その最中、パードゥン田中が飾り付けのために天井に手を伸ばした際、その手から放たれた微細な光で、会場の空調設備がなぜか最高の状態になり、室内の空気が驚くほど澄み切っていた。
「田中くん! やりすぎよ!」
斎藤さんが、田中の暴走を止めるべく壇上へと駆け上がる。
「斎藤さんか! これもまた、最高の舞台演出だ! 感動の共有だ!」
「共有と暴走は違うわ! 宇宙拳・心の調律!」
斎藤は、田中の巨大な体に触れると、彼が放っていた過剰な感情エネルギーを穏やかに鎮めていく。すると、田中の熱すぎる演出が、より繊細で感動的なものへと変化し、社員たちの心に深く響き渡る。会場全体が、温かい感動と一体感に包まれた。
田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が何をしていたのか覚えておらず、ただ斎藤の顔をきょとんと見つめていた。
「さ、斎藤さん…私、また…」
「ううん、大丈夫。あなたのおかげで、最高の表彰式になったわ。みんな感動してたもの。それに…」
斎藤は微笑んだ。そして、表彰式後、田中が空調をいじったことで、長年原因不明だった会場の音響の不具合がなぜか改善されており、さらに表彰された社員たちの自信が劇的に向上したことが判明した。社内表彰式は、まさかの「感動と自己肯定感の向上」という、前代未聞の成果をもたらしたのだった。
 




