14話「地獄の棚卸し作業」
年度末恒例の棚卸し作業は、膨大な在庫を数え、整理する地味で骨の折れる作業だ。普段から数字に弱く、集中力も続かない田中は、ミスを連発し、倉庫の片隅で途方に暮れていた。
「田中! てめぇ、何回同じ間違いしてんだ! これじゃあ終わらねぇだろうが!」
管理職の声が倉庫に響く。田中の肩が震え出す。
「パードゥン?」
その瞬間、彼の体が、ゴゴゴゴ…と低く唸りながら巨大化していく。作業着が弾け飛び、彼の巨体が倉庫の棚にぶつかり、商品がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「間違い? とんでもない! 全ての在庫を、瞬時に把握しましょう!」
パードゥン田中は、崩れた商品の山をものともせず、光速で在庫を数え始めた。彼の目はまるでバーコードリーダーのように働き、指先が触れただけで商品の種類、数量、製造日まですべてを瞬時に把握していく。彼は倉庫中を駆け巡り、膨大な量の在庫をわずか数分で正確に棚卸しし、完璧な在庫リストを作成した。しかし、彼の行動はエスカレートし、「もっと効率的に!」と叫びながら、倉庫の壁に穴を開け、新しい搬入口を作ろうとし始めた。
「田中くん! 倉庫が壊れるわよ!」
斎藤さんが、田中の暴走を止めるべく駆けつける。
「斎藤さんか! これもまた、物流の効率化だ! 未来を見据えた倉庫設計だ!」
「未来を見据えるのはいいけど、今を壊しちゃダメでしょ! 宇宙拳・秩序の創造!」
斎藤は、田中の破壊的な拳が壁にめり込む寸前で、その動きをぴたりと止めた。彼女の手から放たれる優しい光が、田中の暴走で散乱した商品をまるで磁石のように吸い寄せ、完璧に分類された状態で棚に戻していく。同時に、彼女のエネルギーが倉庫の空気に広がり、埃っぽかった倉庫内が、なぜか清々しい空気で満たされた。
田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が倉庫を破壊しようとしていたことに気づき、青ざめた。
「さ、斎藤さん…私、また…」
「まったく、ハラハラさせるんだから。でも、おかげで棚卸しは完璧に終わったし、倉庫もすごく綺麗になったわね。それに…」
斎藤は微笑んだ。そして、棚卸し後に、田中が棚卸し中に接触したことで、長年原因不明だった倉庫の湿気問題が解決し、カビの発生が激減していたことが判明した。棚卸しは、まさかの「倉庫改善プロジェクト」という、予期せぬ成果をもたらしたのだった。




