11話「眠れない社内研修」
とある週末、全社員を対象とした「最新テクノロジー活用」研修が開催された。難解な専門用語と膨大な情報量に、多くの社員が睡魔と闘っていた。中でも田中は、冒頭から完璧な姿勢で居眠りを決め込み、講師から何度も注意を受けていた。
「そこのあなた! 寝ないでください! 大事な研修ですよ!」
講師の厳しい声に、田中の意識は朦朧とする。
「パードゥン?」
その瞬間、ドォォォン!と轟音が響き渡り、彼は「パードゥン田中」に変身。研修会場の壇上に、巨大な体を揺らしながら飛び上がった。
「居眠りなどとんでもない! 私はすでに、全ての知識を吸収済みだ! そして、それを今、皆様に還元しよう!」
パードゥン田中は、講師の代わりにマイクを握り、最新テクノロジーについて語り始めた。しかし、その内容はあまりにも高度で、社員たちの理解をはるかに超えていた。彼は量子コンピュータの構造からAIの倫理問題まで、難解な数式や概念をホワイトボードに光速で書き殴っていく。社員たちは、ただ圧倒されるばかりだった。
「すごい…けど、全く理解できない…」
「まるで、超天才の独り言だ…」
その最中、パードゥン田中が熱弁を振るうあまり、振りかざした腕が隣の席の社員に当たってしまった。しかし、その社員は「いたっ!…あれ? 長年悩まされていた難解な資料の内容が、なぜかスッと頭に入ってきたぞ…?」と、不思議な体験をしていた。
「田中くん! 講師の先生に失礼よ!」
斎藤さんが、田中を止めるべく壇上へと駆け上がる。
「斎藤さんか! 我が知識の奔流を止める気か!」
「知識は素晴らしいけど、相手に伝わらなきゃ意味がないわ! 宇宙拳・理解の波動!」
斎藤は、パードゥン田中の荒々しい知識の奔流に、自らの宇宙のエネルギーを重ね合わせた。すると、田中の難解すぎる説明が、まるで自動翻訳されたかのように、社員たちが理解できるレベルに調整されていく。ホワイトボードの数式も、彼らにとって分かりやすい図やグラフに変化し、研修会場に「なるほど!」という声が上がり始めた。
田中の体が元のサイズに戻り、彼は自分が壇上に立っていることに気づき、青ざめた。
「さ、斎藤さん…私、何を…?」
「ふふっ。ちょっと熱くなりすぎただけよ。でも、おかげでみんな、ちゃんと理解できたみたいでよかったわね」
斎藤は優しく微笑んだ。そして、研修後、パードゥン田中の暴走によって、なぜか研修会場のプロジェクターの解像度が向上しており、さらに社内ネットワークの通信速度が格段に上がっていたことが判明した。研修は、思わぬ形で、会社のインフラ改善に貢献したのだった。




