1話、これであってるのか?
今日の用事も済んだし、買い物をして帰ろう。夕方、のんびり歩きながら店に入った。そうしたら、
「うわ、いてぇ。」
鉄製の何かが頭に思いっきりぶつかってかなり痛い。痛くて後頭部に手を当ててぶつけたところを触る。手は濡れてない。ケガはしていなさそうだ。
良かった。と思いつつもまだ頭が痛い。ぶつかったものを探すように辺りをキョロキョロしていると、ぶつかる前とは景色が違う。明らかに昼間になっている。
「は?」
訳がわからなくて思わず声が出た。木、木、木、草。一応、道か広場っぽいが、明らかに現代ではない。おかしい。さっきまで俺は買い物でホームセンターにいたはずだ。
状況が把握できないが、自分の体に変化はないか確認する。服、いつのもの普段着、Tシャツとズボン。よし。鞄も持ってる。肩に掛けたままの重たい鞄があるのが余裕ができてきたからわかった。中の確認がしたいが、ここがどこかわからないし状況把握からだ。スマホもポケットに入っていたのを取り出してみるが案の定圏外。ってことはアレか。
「マジか、異世界転移か。」
尻もちをついてハーっとタメ息を吐いて脱力した。少しだけそのまま呆然としたが両手を頬に当てばちんと叩く。
「やるしかないか。」
気合いを入れて気持ちを切り替える。
わくわくしてきた。俺はこういうのが好きだ。
剣と魔法の世界なんだろうか?それとも、ステータスとかあってスキルがふれる系か。
「ステータス!!」
少しカッコつけたがしかたない。好きなんだよ。
だけど、ステータス画面は表示されなくて、がっかりした。まあ、ダメ元だったからいいが。
スマホでこの場所の写真を撮ってから、周りを見た時に道になっていたからどっちにいこう?
あっちにするか。向いている方向に向かって歩き始める。人に会えればいいが、言葉が通じるかわからない。どうなるかわからないがなるようになるだろう。手で右目を隠しながら、
「これこそが我が冒険の始まりである。」
このセリフ言ってみたかったんだよね。にやけてしまいながら、歩き始める。
「・・・・・・。」
歩く、歩く、歩く、あ、る、く!
「どこまで歩いても何もないじゃないか。」
少しずつ空が赤くなっている。スマホの時計だと21時37分。これじゃあ時計は使えない。そもそも時間がどこまで違うのかもわからない。
「ま、しかたないよな。」
ぼやきはするが、切り替えて歩く。少し腹が減ってきたな。食べれるものは何も持ってない。水場もない。何も生えてない。微妙なら食べないけど。
歩く速度が遅くなってきた。限界じゃないけど、何もないのはきついなと考えていたら、
「ん?」
ザー、ザー。と水音がする。茂みの中に入るが気にしないで、枝をかき分けて音の方へ進んで行く。だんだん音が大きくなる。4、5メートルぐらいの滝と滝つぼがぽっかりとひらけた空間に出てこれた。
「やった!なんとかなった!よかった。」
走ってはないが速足で水辺まで急いだ。もうへとへとだ。あー、これ飲めるのか?食中毒とか怖いよな。火おこせるか?キョロキョロと周りを見て枝を探して試してみたが、無理だった。焚火の形だけ作ってあるが意味がない。寝床もないし、近くに洞穴もない。夕日も見えなくなりそうになっている。試していなかったが、魔法って使えるのか?恐る恐る手を焚火に向けて、
「炎よ、起きろ!」
うん。無理だよな。色んな系統の小説やアニメを見たが概念ってどれも違うし。呪文とかあるかもだし、それとも魔力とかが俺にはないのかもしれない。
「あー。やっぱり限界か。こういうのなら、結構知識とかでなんとかなると思ってたんだが。」
力なく笑って、また右目を覆い隠す。
「我が声を聴け。万物の力を借り煉獄より立ち昇りし業火で、我が前に立ちはだかりしモノを焼き尽くし給え」
ダメでもいい。何かの呪文にかすっていたらいいのにと考えて適当に中二病臭いことを言ってみた。
ッボ。
火が付いた!?目の前にはメラメラと燃える焚火があり、信じられない。
「うわっ!?」
火が付いた事よりも目の前に。いや、距離ちかっ。目に当たりそうな間近にキラキラと目を輝かせた赤いトカゲと羽が生えた小人がいる。




